Black valkria




「Ms.千年は後程、何とかしマース」


「本当にお願いします」


この驚きの軽さ!どこかの通販のCMの様な、そんな感じのペガサスに私は深々と頭を下げた。
相変わらず、腕の中ではぬいぐるみに魂を封印された千年お姉さんがヒステリックに暴れていた。


≪何とかならなかったら、そのカーテンヘアーを跡形も無くバリカンで刈ってやるんだからっ≫


「いや、お姉さん。この人にはもっと、重い罰の方がいいよ。二度とこんなふざけた真似が出来ない様な、そうだな…――遊戯君とのデュエルに負けた直後の情けない顔をドアップで全国ネットで晒すとかさ!」


ソコソコと隠れて撮影してたよね。色んな所に隠しカメラとか、セットしてるのも知ってんだよ!
きっと、ワイドショーとネットでネチネチと弄られるよ!事細かく提案すると、お姉さんは予想通りに頷いてくれた。


「紫乃ガールとっても怖いデース…」


紫乃ガール……からかって遊んでいた事、まだ根に持ってマスね。





怖い顔をした我々にずらりと囲まれ、観念したペガサスはふざけた表情を一掃して語り始めた。
少しでも、ふざけた事を言ったり、したりすればもう一人の遊戯君が『罰ゲーム』と叫ぶ。それだけなのにペガサスは酷く驚く。


「私は今まで千年眼の力によって様々な人間の心を見せられて来ました…だが、二つの人格を持つ者が存在するとは…」


それがユーの千年パズルの力なのですね。
二重人格のキールボーイとはまた違う…千年パズルに宿るもう一つの人格。


「さぁな…千年パズルの力は俺にも分からない…だが、何らかの意志によってもう一人の俺とめぐり合わせてくれた気がするぜ」


「ユーは知らないのデスか、千年アイテムに秘められた邪悪なる意志を…」


もう一人の遊戯君のその言葉を聞くとペガサスは静かな驚きを表していた。
邪悪な意志、彼は鋭い瞳を更に鋭くしてペガサスに問い質した。千年アイテムをどこで、何の目的で、入手したのか。





「それを説明するにはこの女性の事も話しておかなければなりません…」


懐から、1枚のカードを取り出した。フレームは通常モンスターカード。だが、そのカードのイラストには見覚えがあった。広間に飾られていたシャーディーの肖像画の隣に並べられていた女性。


「シンディア…それが、この少女の名前デス――七年前、僅か十七歳にしてこの世を去った私の恋人」


ゆっくりと、囁く様に言ってペガサスはカードを一撫でした。嘘みたいな真顔。愛情と喪失感の入り混じる切ない表情で。
彼女との出会い互いに惹かれ合っていき、生涯を誓い合った。そしてその最愛の人が死んでしまった事。
きっと、ペガサスは今もまだ彼女が死んでしまった事を、永遠の別れと言うものを受け入れ切れていないのだ。





「気が付くと、私はエジプトを訪れていました。古代エジプトでは現世の人の魂は来世へと継がれ、永遠のものとされる死生観に興味を持ったからデス…」


「エジプト…永遠…」


誰かが一瞬嘲笑った様な気がした。クスクス、ケタケタと不愉快なそれは私の心の中に静かに素早く広がる。
小さなざわめきはやがて騒音に変わった。激しい眩暈と左胸が熱くジクジクと針で突かれている様に痛んだ。
キール君に無理やり抱き締められている千年お姉さんは他、周りの皆はペガサスの話に聞き入って気が付く様子は無い。
今この場を離れる訳にはいかない知りたい。千年アイテムの事を。いや、知らなければいけないんだ。





「少年だった…その眼は怪しい光を秘め、ゾッとする程の冷たい視線でした……そしてその首には輪つきの十字架を下げていた」


それはあのシャーディーとか言う人の事だろうか。広間に飾られていた肖像画。ずっと、胸に引っ掛かっている。
あのエジプト人とどこかで会っている様な気がしてならない。それは一体どこだ。思い出せ、思い出せない。


「シャーディー……間違いない…奴だ!」


もう一人の遊戯君の声がやけに遠くに聞こえた。周りの音もぼんやりとしか聞こえない。
押し潰される。自分の意志とは関係無く瞼が閉じられた。






「少年…シャーディーは命が惜しくば、この村……クル・エルナ村、別名盗賊村で無闇に金を見せない様にと忠告して去りました」





「!」


盗賊村…クル、エルナ……!
ぼんやりとしか聞こえなかったはずの耳に、その村の名前が脳に響く様にはっきりと聞こえた。


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