Black valkria




デュエル開始の宣言はとっくにされていたが、互いに無言で、フィールド越しに相手を見つめていた。
瞬きすらも、許されない張り詰めた空気の中、沈黙を破ったのは聖さんからだった。


「正直、ここに君がいる事に驚いています。僕とのデュエルの後…君はもうこの王国から、去ってしまったかと。
だから、僕は草の根分けてでも君を探し出し、一発いえ…もっとブン殴ってやろうと心に決めていました


「(うわあぁ、聖さん目が本気だ!)」


長い前髪の隙間から、暗い瞳が地獄の業火の様に燃えているのが、見えた。
恐ろしい怒りの炎が、真っ直ぐに飛んできて、その圧力が両肩に重たく圧し掛かる。





「この場に君がいる事…それを喜ばしくも思い、また忌々しく思います」


一瞬、責められる様な眼差しを向けられたが、すぐに聖さんは目を伏せた。私はこの人の誇りを踏み躙ったのだ。
許されなくても、許されなくてもいい。逃げ出さずにこの人と闘うんだ。


「鏡野君。いえ――今は言葉等、不要ですね」


何かを言い掛け、聖さんは小さく頭を振って、その言葉を飲み込んだ。
聖さんの瞳にはもう、地獄の業火は無い。闘いに望むデュエリストの瞳だった。





「「デュエル!!」」


紫乃 VS 聖 LP2000





「僕の先攻。ドロー!僕は『精気を吸う骨の塔』を守備表示で召喚。カードを2枚伏せて、ターンエンド」


精気を吸う骨の塔
[DEF/1500 ATK/400]


骨と骨が天高く積み重なった不気味としか言い様が無い塔。その周りにはいくつもの青白い火の玉が漂っていた。
お化け屋敷の入り口に片足突っ込んだ気分だ。それに薄ら寒い笑みを口元に貼り付けている聖さんも怖い。





「…私のターン!」


お化けなんか怖くない。お化けなんか怖くない。お化けなんか怖くない…!
心の中で半泣きになりながら、三回繰り返してカードをドローした。


「『D.D.アサイラント』を召喚!」


D.D.アサイラント
[ATK/1700 DEF/1600]


「相手がモンスターを召喚したこの時、トラップ発動『隠れ兵』。
手札から、レベル4以下の闇属性モンスター1体を特殊召喚します。来なさい『ヴァンパイア・ベビー』!」


まん丸の頭に一つまみ程の髪。尖った大きな耳に小さな口からはみ出た鋭い牙。
爛々と怪しく輝くつぶらな瞳。ベビーと聞いて、愛らしい赤ちゃんを想像した私は馬鹿だった。
そうだよね、ヴァンパイアって聖さん言ったもんね。天使みたいな赤ちゃんな訳ないよね…!


ヴァンパイア・ベビー
[DEF/1000 ATK/700]


「そしてアンデットが特殊召喚されたこの時、『精気を吸う骨の塔』のモンスター効果発動。
このカードがフィールドにある限り、アンデットが特殊召喚される度、君はデッキの一番上からカードを2枚墓地へ送らなければなりません」






「バトルだ!『D.D.アサイラント』で『精気を吸う骨の塔』に攻撃!」


「駄目ですよ。『精気を吸う骨の塔』はこのカード以外のアンデットが存在する時、攻撃対象には出来ません」


「なら、『ヴァンパイア・ベビー』へ変更だ!行け『D.D.アサイラント』!」


「『ヴァンパイア・ベビー』撃破!」


細腕で軽々と扱う剣はD.D.アサイラントの細腕には似つかわしくない大きさで、それが腐敗した小さな塊に振り下ろされた。
大きく切り付けられ、甲高い短い悲鳴を上げ、ヴァンパイア・ベビーは破壊された。


「カードを1枚伏せ、ターン…エンド」


自分のモンスターが破壊されたのにも関わらず、笑みを浮かべている。


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