――ア、ル…ジ……デッキに指を掛けた瞬間、誰かの声が聞こえた様な気がした。周りを見ても聖さんと私以外誰もいない。
聖さんの方を見ても、私がデッキの一番上からカード墓地へ送るのを静かに待っていた。
大人しくしてるお姉さんをチラリと見ても何も聞こえていない様子だ。
気の所為と自分に言い聞かせ、デッキの一番上のカードを静かに捲る。それは入れた覚えも、手に入れた覚えもない見知らぬカードだった。
「え…」
ダーク・ナイト-ナイトメア-。
紫色の黒味かがった鎧を纏い、禍々しい大剣を構えた剣士のカード。
≪……紫乃?どうかしたの?≫
「あ…何でもない、です」
今まで大人しくデュエルを見守っていたお姉さんが黙ったまま動かない私に小さな声で尋ねた。
こんなカードを手に入れた覚えは無いし、デッキに入れた覚えも無い。一体、どこで紛れ込んだんのか。
不思議半分、不気味半分の気持ちだが、今どうだこうだ考えても仕方が無い。そのカードを墓地へ送り、ざわめく胸を押さえつけてデュエルを続ける事にした。
「私のターン…うわ!?」
デッキからカードをドローした瞬間、自分のフィールドに見慣れぬモンスターが現れた。
そのモンスターは先程、ミディアンズ・コフィンの効果で墓地へ送ったダーク・ナイト-ナイトメア-だった。
ダーク・ナイト-ナイトメア-
[ATK/1900 DEF/1000]
「ナイト、メア…」
「そのモンスターは…!?」
突然のモンスターの出現に聖さんも驚いている様でナイトメアを見つめていた。
「(何で、ライフが…!)」
紫乃 LP1600 → LP600
「……成る程、相手のカードの効果によって墓地へ送られたら特殊召喚されるモンスター…」
大幅に削れたライフはあのカードの効果の様ですね…。
ライフに多大なコストが掛かりますが、それを上回るモンスター効果を持っているのでしょうか…用心しておきましょう。
「(何か…このカード、変な感じがする…)」
このカードが相手のカード効果によって手札またはデッキから墓地へ送られた時、次の自分のスタンバイフェイズに自分フィールド上に攻撃表示で特殊召喚する。
このカードが特殊召喚に成功した時、このカードのコントローラーは1000ポイントダメージを受ける。このカードが相手のカードによって破壊され墓地へ送られた時、
次の相手のスタンバイフェイズに相手フィールド上にこのカードが特殊召喚される。
凄い効果だな…知らない人のカードを使うのは気が引けるが、もう出てきてしまってはどうする事も出来ない。
「…バトルだ!」
このカードの事は聖さんと決着がついたら、考えよう…。
「バスターで『ヴァンパイア・ロード』へ攻撃!破壊剣一閃!」
「通しません。トラップ発動!『身代わり人形の呪い』!このカードは自分の場にアンデットモンスターが1体のみの場合、発動可能です。相手フィールド上の攻撃表示モンスターを全て破壊します」
「何!バスター…!!」
「そして破壊したモンスターの数だけ、君の場に『身代わりトークン』(アンデット族・闇・★1・攻/守0)を守備表示で特殊召喚します」
破裂音と共にバスターとナイトメアが破壊され、代わりに身代わりトークンが2体特殊召喚された。
身代わりトークン
[DEF/0 ATK/0]
「このトークンは生け贄にする事も出来ず、君のデッキを蝕む。君の場に『身代わりトークン』が存在する限り、君は自分のスタンバイフェイズ毎にそのトークンの数だけ、デッキの上からカードを墓地へ送らなければならない」
「私は、これで…ターンエンド」
つまり、戦闘で破壊される以外はこのトークンを消す方法は無いって事か…。あぁ、やばい!デッキが薄くなってきた!
「フフ…楽しいですよ。こんな緊張感のあるデュエルは久しぶりです」
今までで闘ったどのデュエリストよりも…どんなデュエルよりも、君とのこの闘いは予測不可能な事が多く僕を楽しませてくれる。
だからこそ僕は全力で答えます。それが、僕のデュエル――!
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