「こんばんは!僕キール・メイルスと言います。気軽にキールって呼んでください」
「え、あ、はい。こんばんは」
ご丁寧にどうも。にこやかに笑顔を浮かべてフレンドリーに名乗る少年にこちらもつい、姿勢を正して頭を下げた。
「あ、あぁーッ!?」「へッ!?」突然、キール君は大きな声を上げて私の顔を指差した。大きな目を更に大きく見開いている。何だ何だ!何があったんだ!?
「あの…もしかして、あなたは"紫乃"さん、ですか?」
「そう、だけど……君はどうして私の名前を…」
キール君の期待に満ちた眼差しを向けられてますます混乱した。頷いて聞き返すとキール君はにっこりと笑った。眩しい…!
「良かった!大分人が居なくなってしまってつまらなかったんですけど、諦めずにこうして夜もデュエリストを探し続けて良かった!」
あぁ、もう慣れない森の中歩いて疲れちゃった。お腹減ったし、お風呂入りたいし、眠たいし。
彼はマシンガンの様に口を動かし、私に口を挟む暇さえ与えてくれない。
「そ、それは…大変だったね。……デュエリストを探していた?」
「はい。僕はMr.ペガサスに雇われたプレイヤーキラーです」
「ペガサスに雇われた、プレイヤーキラー…?」
屈託の無い笑顔で言われた言葉に耳を疑った。キール君がペガサスに雇われたプレイヤーキラー?
「夢を抱いて、この島にやって来たデュエリスト達の可愛い夢を根っこすら、残さない様に刈り取るのがプレイヤーキラーの、僕の仕事です〜」
ペガサスの事だ。最初から、誰も城に入れるつもりなど無いのだ。現にプレイヤーキラーとやらを雇って、デュエリストを潰し回っている。
可愛い顔して、えげつない事を楽しそうに語る彼に私は思わず後退りする。
「か、可愛い顔して恐ろしい事言うね…キール君」
警戒を強める私に対し、キール君は逆に照れ笑いをした。
「やだなぁ!野郎の僕の顔が可愛いだなんて。紫乃さんったら
そっちの趣味?」
生憎と僕、ドノーマルなんですよ!!
「そっち?…え、そっちって?」
君の言っている事を理解するのは凄く難しいんだけど。首を傾げる私を見てキール君は手をポンと叩いた。
「あぁ!天然のノンケたら
≪黙れ、マセガキが≫うちの紫乃に変な事吹き込んでんじゃヌェわよ。
両腕でしっかりと抱き締めていたお姉さんが、いつの間にかキール君の目の前に。
「ぬいぐるみが…」
驚いてぬいぐるみ(お姉さん)を凝視するキール君から、すぐさまぬいぐるみを後ろに隠した。
言い訳を考えた。必死で頭を回転させた。この状況を切り抜けなければ…!
「こ、このぬいぐるみはね…えっとね!?」
音声に反応して喋る最新のハイテクが詰まったぬいぐるみなんだよ!!
お姉さんの口(?)を押さえながら、必死で考えた言い訳は自分でも苦しいと思う。
嘘だ!と問い詰められるかと思ったら、彼は何やら呟いていた。
「そうか。それが例の…千年ドール」
「え…?」
今、キール君は千年ドールとか何とか言わなかったか。
彼の口元に薄っすらと笑みが浮かんでいた。再度見るとその笑みは消えていた。
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