「あんたじゃ、痛い思いだけじゃすまないと分かってるのか」
このデュエルの果ては最悪の場合死。いや、確実に死だな。器のデュエルタクテクティクスはもう一人の遊戯より、低かったはず。
「あんまり、僕を舐めていると、痛い目を見るかもしれないよ」
「そうかい」
奴の場のモンスターはブラック・マジシャン・ガールのみ。伏せカードは2枚。アスタルテの今の攻撃力なら、奴のライフを余裕で削り取れる。
あの伏せカードがアスタルテを破壊、攻撃を無効にするものだとしても、破壊効果はモンスター効果で無効に出来る。ここはもう1体モンスターを召喚しておいた方が確実かな。
と言っても、アスタルテがいる時、アスタルテ以外のダーク・ナイトは召喚出来ない。
器が発動した天よりの宝札のお陰で手札は6枚。今ドローしたカードを合わせて7枚。その内、召喚可能なモンスターは1体のみ。
「マジックカード『古のルール』を発動。手札から、レベル5以上の通常モンスターを1体特殊召喚する。来い『真紅眼の黒竜』」
真紅眼の黒竜
[ATK/2400 DEF/2000]
「この瞬間、リバース発動!『黒魔族復活』!
相手がモンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、墓地に存在する魔法使いを1体選択し、自分と、相手のフィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる事で、その魔法使いを復活させる…!」
「へ、ぇ…」
「『ダーク・ナイト-アスタルテ-』と『ブラック・マジシャン・ガール』を生け贄に――」
十字架に六芒星の彫られた黒い棺が現れた。棺が開くと、選択された二体のモンスターが吸い寄せられる。
ブラック・マジシャン・ガールは自ら進んで飛び込んで行ったが、アスタルテはアバドンの邪剣を地面に突き刺し、抗おうとする。
しかし、最後はアバドンの邪剣だけを残し、棺の中へと吸い込まれてしまった。再び、棺が開くと、
「蘇れ、『ブラック・マジシャン』!!」
ブラック・マジシャン
[ATK/2500 DEF/2100]
「は、何を出すかと思いきや、またそいつかい」
「そんな余裕ぶっても、無駄だよ」
「僕は絶対に君のペースに飲み込まれたりしない。君の考えは僕には透けて見えるんだから」
鼻で笑う俺を真っ直ぐ見ながら、器は言う。
一体、俺の何が見えるって言うんだ。そんなのはただのはったりだろうが。
「君は他人を突き放す言葉を言ったり、嘘みたいだけど、嘘じゃない言葉でいつも自分自身を覆っているよね。
だから、他の人には本当の君がよく見えなくて、君が怖くて、恐ろしいんだ。君が――そう思わさせている通りに」
「あんたには見えてるって言うのか」
「本当の君は他の人が思っているよりも、ずっと子供なんだよ。すまして、捻くれた可愛げのない」
「………は、ハハッあはは…!」
あぁ、おかしい!見てくれが小学生の奴に子供だと言われて、笑わずにいられるか。
腹を抱えて笑う俺を静かな瞳で見つめてくる器に次第に笑いも失せてきた。
何故、そんな事を。低く問えば器の静かな答えが返ってくる。
「他人を傷付ける度に苦しそうな顔をして笑っているおかしな君を見れば、分かるよ」
自分にとって、重要な感情を隠しているつもりらしいけど、僕には筒抜けだ。だって、いつも、僕は、
「君を見ていたから」
やめろ。あんたが見ていたのは紫乃の方だ。決して、俺ではない。俺の心を見た訳ではない。
器の言葉を頭の中で瞬時にめちゃくちゃに打ち消す。そんな事があってたまるかと。
「俺が他人に怖いだの恐ろしいだの思わせてるだ?そんな面倒な事をする訳ないだろう。自分が他人にどう思われ様と、知った事じゃないし、俺は他人を傷付ける事に何の抵抗はない」
「あいつと一緒にするな。俺はあいつとは違う。俺はあいつには出来ない事をしているじゃないか――俺は残忍な奴だ!」
残虐非道なマリクと同じだ。だんだん、言っている内に力がこもる。気が付けば最後は叫んでいた。
言い終わると、肩で息をしていた。ムキになって言い返して、これでは器の言う通り、図星みたいではないか。
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