Black valkria




その後、すぐに杏子ちゃんが息を切らして、聖さんの部屋に飛び込んできた。
デュエル・タワー爆破時間が迫っている中、海馬君とモクバ君の姿がどこにも見えないと。
え、もう時間ないじゃん!皆(病み上がりの聖さんまで借り出され)血眼になって二人を探した。


爆破五分前。
捜索の甲斐も無く二人は行方知れずのまま、やむを得なくバトルシップはアルカトラズから脱出した。
凄まじい爆発音と共にデュエル・タワーはアルカトラズ共々崩壊し、天空デュエル場でその光景を眺めながら、
絶望的な雰囲気の中、轟音を裂く凄く聞き覚えのある高笑いが聞こえた。





「ワハハハハハハ!!」





土煙の中から、青眼の白龍が飛び出し、まさかとは思ったが海馬君達であった。
青眼の白龍を象った戦闘機に乗って、おおはしゃぎな海馬君。何してんだあの人。
千年お姉さんは心配して損したと、ぶつぶつ言っているが無事で良かったとホッと、息をついていた。


「あいつ戦闘機に乗ってやがる!」


「海馬君…」


「まぁ、とりあえず無事で何よりって事で…」


世界海馬ランド計画の為、彼等はその足でアメリカに向うそうだ。
じゃあな、とでも言う様に海馬君は遊戯君に視線を投げて、去って行った。
流石、戦闘機。すぐにその姿は見えなくなってしまった。


「あばよ、アルカトラズ!」


もう小さくなってしまったアルカトラズに見送られ、私達は帰路を辿る。










「ところで、ナ、じゃない、マリク君?」


「やだな。マリクでいいよ紫乃」


僕達知らない仲じゃないだろう。言いながら、マリク君、改めマリクは私の隣をキープし、たまに肩を抱かれたりする。
こんな扱いをされて私は彼に対して、恐怖と戸惑いしか抱けない。


「私の中では君と出会って、数時間経つか経たないかなわけで、しかも、私の知っている君はグールズの総帥のマリク様なわけでね」


ごめんね。急にこんなにフレンドリーな扱いをされて、私困惑しか出来ないんだけど。


「分かってるよ。紫乃には悪い事をいっぱいしちゃったから、最後にこうして、本当に仲良くなろうとしてるんじゃないか」


だからって、こうベタベタされると、ちょっと。
引っ付いてくるマリクの肩を押しながら、それよりも、君に聞きたい事があるんだ。と切り出す。





「君がレア・ハンターを使って、私と接触した時に君は言っていただろう。私に"同じ王の敵同士"って」


美術館で、イシズさんが言っていた大罪とは…知っているなら、教えてくれないか。
出来れば皆にも聞いてもらいたい。もう、隠し事をしたくないから。
アルカトラズから、マリクへと皆の視線が集まる。でも、マリクは私の期待していた答えではなく「ごめん」とだけ言いい目を伏せた。


「実は詳しくは僕も知らないんだ。そう言った方が君を激しく動揺させて、判断力を鈍らせると、思ってね」


「そっかぁ」


「本当にごめんね。もう一人の遊戯、名もなき王の魂が失われた記憶を取り戻せば何か分かると思うんだけど」


「(やっぱり、それしか無いよね)いや、気にしないで」





「それよりもさ、」


「もし良かったらでいいんだ。童実野町に着いたら、町を案内してもらえないかな。
実はバトル・シティ中は移動ばかりで全然、観光出来てなくて。僕日本初めてだから、行きたい所いっぱいあって!」


スシが食べたい。水族館で生のイルカを見たい。寺に行きたい。バイクも見たい。服も買いたい。
目をキラキラと輝かせ、思いつく限りの事を口にして、最後には「やっぱり、日本に来たからにはサムライが見たい」とか言い出す。
もう一人の遊戯君に抱いていた誤解が解けたマリクは最初の頃の様な毒気は無く、凄く純粋で、その分だけたちが悪い様にも感じる。


「今回は無理だぜ、マリク」


助け舟は突然、やって来た。
もう一人の遊戯君と城之内君がデュエルディスクを構えて、そして言う。


「童実野町に着いたら、紫乃はまず俺達とバトル・シティの続きをするんだぜ」


「なぁ、紫乃」


「うん…!」


城之内君と遊戯君と私のバトル・シティもまた果たされていない。
今日は泣いてばっかりだな私。また緩む涙腺を引き締めて、強く頷いた。


「それじゃ仕方が無いな、観光は姉さん達と行くよ」


私が頷くと、マリクはあっさり引いた。あっさり過ぎてよくよく見ると、ちょっと、しょぼんぼりしている様に見えた。
「今度、色んな所に連れて行ってあげから」私が言うと、「その時はよろしく」とマリクは歳相応の笑顔を浮かべた。


「それまで、サムライの事をいっぱい勉強しておくよ!」


や、だから、サムライに会うはちょっと…難しいと思うよ。


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