Black valkria




重苦しい雰囲気の中、父さんが、言い放った一言に私は凍りつく。
一瞬、これは夢ではないのだろうか、そう思った。いや、そうであって欲しいと願った。


「紫乃…――父さん達、離婚する事になった」


「え」


私はただ、間抜けな声を上げて、両親を見つめ返す事しか、出来なかった。










もう五月のも終わりに差し掛かる頃。梅雨の季節を飛び越え、気温は真夏並みになっていた。雨よ、どこへ行った。茹だる様な暑さ。
今時、珍しい黒一色のオーソドックスな学生服が、太陽光を吸収し、日射病で倒れそうだ(悲しい事に実際、倒れないだろうが)。
この気温にも関わらず、学校ではまだ夏服に切り替わっていない。


そろそろ、夏服に切り替わるだろう。てか、切り替わらないと生徒会が暴動を主催する。
この暑さで私の頭は随分やられてしまった様だ。帰ったら、すぐに制服を脱ぎ捨て、シャワーを浴びよう。










「ただいま」


暑かった。早く着替えよう。
自室へ急ごうと階段を駆け上がろうとした時だった。母さんと出くわした。
いつも、明るく自分を出迎えてくれるのだが、今日に限っては元気が無い様に見えた。


「あぁ、紫乃…おかえり、なさい」


「う、ん?ただいま…母さん」





「紫乃、話があるの。着替えたら、すぐ降りて来なさい」


「うん…」


多少の違和感を感じながら、返事をした。話って一体、何の話だろう。
…改めて、呼ばれて話す事なんて、思い当たらない。最近、大人しくしてたし。





「母さん、話って……あれ、父さん」


着替え、リビングに行くと、まだ会社にいるはずの父さんが居た(いつもはもっと遅くに帰ってくるのに)。
両親は突っ立っている私に気付くと、座りなさい、と自分達が座るソファの向いの席を指した。


「話って何?何か…あったの」


言われた通り、向かいの席に着いた。尋ねても、二人は黙ったまま、口を開かない。
その重苦しい沈黙に戸惑い、言い知れぬ不安を覚え始めた頃、父さんが深刻な面持ちで漸く口を開いた。





「紫乃――父さん達、離婚する事になった」


自分を冷静にする為に冒頭から、ここまでの経緯を思い出していたが…やはり、冷静にはなれなかった。


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