Black valkria




「……闇騎士バルベリト召喚」


華やかな誘惑の魔術師とは対照的な干乾びた老兵を召喚すると、早速、アメティスタが誘惑の魔術師に命じる。


「『誘惑の魔術師』の特殊効果はっつどぅん!相手の魔物・精霊を誘惑し、我がしもべとする――誘惑の眼差し!!」


これで、あなたの闇騎士は私のしもべとなりますわぁん。


「無駄だ。『闇騎士バルベリト』の特殊能力。バルベリトが召喚された時、相手の精霊・魔物と強制的に契約を交わし――私に従う事になっている」


誘惑的な眼差しを回避し、バリベルトは懐から、一枚の紙を取り出し躍り出る。


「お前の精霊は既に私のバルベリトと契約を交わしている…」


「まぁ!」


誘惑の魔術師の仮面の上から、契約書を貼り付け、視界を塞がれた精霊は右往左往と踊る。
やがて、踊りつかれた精霊は動きを止め、主人であるアメティスタに武器の矛先を向け、攻撃を仕掛ける。





「そこまでじゃ!いやいや流石…秒殺じゃのう」


シモン様の合図でバルベリトを引っ込めると、誘惑の魔術師の仮面に貼り付く契約書が剥がれ落ち、アメティスタに攻撃せずに済んだ。
やはり、セトと当ててみるべきじゃったかのうなどと物騒な言いながら、シモン様は手を組まれた。


「本当に容赦の無い人。でも、そんなところが好きですわぁん」


「引っ付かないでくれるか」


アメティスタも精霊を仕舞い、私を気遣い怪我を負っていない方の手を両手で抱きしめる。が、どっちにしても動き辛い。
それにこうベタベタされるのは好きじゃない。





「貴様の役目は終わった。さっさと戻れ」


言っても離れてくれないアメティスタをセト様が引き剥がしてくれた。このお二人は仲が悪いらしい。
顔を合わせるだけで、セト様は露骨に嫌な顔をなさるし、アメティスタは顔には出さないが彼を怒らせる言葉をわざわざ選ぶ。


「あらあら、セト様ったらぁん。ファラオに決闘で負けたからと言って、私に当たらないで下さいませんかぁ」


「き、貴様ぁ…ッ!」


「アメティスタ!」


「あら、やだ。怖いお顔…ふふ、お師匠様とセト様のお怒りが穏やかな内に戻りますわぁ」


憤慨寸前のセト様にマハード様が声を上げながら近づくと、アメティスタはすぐに身を翻す。
現れた時と同じく、ふわふわとした足取りで出口に数歩向かっていくと、その後ろ姿は溶けて消えてしまった。





「全く、マハード!弟子の教育がなっとらんぞ」


「返す言葉もない…後でよく、言い聞かせます」


「お前も言って駄目なら態度で示せ。あの女がつけ上がるだけ…おい、どうした」


「…何でもありません」


彼女の消えた方をいつまでも見つめる私にセト様が言い掛けた言葉を止め、私の肩を軽く掴む。
私の気のせいだと思いますと曖昧に付け加えると、セト様が形の良い眉を顰められた。





ただ、彼女のはっきりした好意が、暗い陰りを落とす瞳が、抱きしめられた腕の感触が、ただただ、不気味で恐ろしいだけなのです。


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