Black valkria




盗賊バクラの王宮襲撃から三日後、王宮の東に位置する闘技訓練場ではバクラの精霊獣の脅威に対抗するべく、六神官様達による召喚獣の戦闘能力強化訓練が行われる事となった。
王の間の手前で奴と出会ったあの時、私の体を押さえつけたのはバクラの精霊獣ディアバウンドだったらしい。姿を消せ、壁も抜ける技を持つ厄介なものだと。


訓練場の入口付近で神官様達の戦いぶりを拝見している私にシモン様が徐にやって来られ、私が声を掛ける前に「さあさ、次はお主の番じゃ」と言う。


「お主の相手も用意しておいたぞ」


「私、のですか」


神官様方のお邪魔はしたくはないのですが。





「次期神官候補のお主が日々鍛錬しておるのは知っているが、たまには近衛兵以外の者と戦うのもよい経験になるじゃろう」


私が何も言い返せずにいるのを内にシモン様は準備を進める。
渋々、シモン様に続き訓練場の中央の決闘場まで進むと、奥の王座に着くファラオがやってくる私を見て、少し驚いた様な顔をなされた。


「その私の対戦する方とは…」


まさか、セト様では…。
先程、セト様はファラオとの決闘に負け、人相機嫌共にとても悪い。
ちらりと盗み見ると、剣幕な表情で睨み返されてしまった。





「私ですわぁ」


「…アメ、ティスタ」


闘技訓練場の何にもない場所からふわりと、アメティスタが現れた。
独特の喋り方に、深い紫色の瞳の私の友人。足取りが妙にふわふわしている。あれも魔術だろうか。


「また、貴様か…半人前の魔術師め」


「アメティスタ…マナと一緒に魔術の修行をする様に言っておいたはずだが」


セト様は忌々しそうに、師匠であるマハード様は呆れ気味に言う。


「嫌ですわぁんマハード様たっらぁん。今日の分の修行はちゃぁんと終わらせてきましたわぁ」


「うふふ…だぁって、あなたの為と言われたんですものぉ」


目が合えばアメティスタはそう微笑む。彼女の事も何とはなく思い出していた。
初めて王宮で出会った時から、どうしてだか、私に構う変わった、不思議な人だった。





「準備はよろしい?」


私が無言で答えて、決闘は始まる。


「「決闘!」」


「『誘惑の魔術師』を召喚!」


先にアメティスタが精霊を召喚した。深い赤の衣を纏い仮面を付けた女の魔術師の姿をしている。
バクラと出会った時、私の記憶は何故か曖昧だった。怪我の所為か定かではないが…、
その為にバクラのディアバウンドの力に驚愕し狼狽してしまった。


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