夕焼け色

005

 強引に連れてこられたのは、埃っぽい空き教室。突き飛ばされるように手を離され、たたらを踏んだ。後ろで鍵をかける音。なんで空き教室の鍵を持って居るのか、なんで朝から登校しようと思ったのか、聞きたいことはたくさんあるのに、口を開けることができない。

「吉岡」

 低い声で呼ばれて顔をあげれば、予想に反して加東は苦しそうな表情で僕を見ていた。

「なんで、来なくなったんだ」

 とうとうこの日が来たのか。ぶつけられた質問に肩が震える。

「連絡は…してあったと思うけど」

 電話番号もメールアドレスも住所も知らなかった彼への連絡方法は、いつも会うあの場所に簡単なメモを置くことだった。
 地元の祭に神楽の担当者として出なければいけないこと。急に代理として決まったから、寸暇も惜しんで練習しなければならないこと。僕の心境の変化が理由だなんて思われないように。不自然な別れだなんて思われないように。そう、嘘を書き連ねた。

 そもそも、彼は補修の待ち時間に来ていただけで、そんな配慮は必要なかったかもしれないけれど。夕焼けを見るのが好きだと、だからいつもここで見ていることを伝えていたから。

「そこにも書いてあったと思うけど、今年の担当が怪我しちゃって…」
「嘘だろ」

 冷静に、いつも通りに返せばいい。そう言い聞かせて口にした理由を、彼は否定した。

「山内に聞いた。吉岡は、最初から担当だったし、稽古の時間を削ってでも必ず夕陽を見てた」

 加東は、隆介が誰かと神楽について話しているのを聞いてしまったと続けた。最初は、通り過ぎようと思っていたのに、僕の名前が出てきて気になって耳をそばだてたという。

「…だから。俺は聞きたい。吉岡がなんで嘘をついたのか」

 用事があることが嘘なら、来なくなったのは確実に僕の心情変化だ。加東は、視線を強く僕の方へよせる。
 今度は、嘘をつけない。この人の視線がきっと許さない。
 傷つきたくない、と僕はこんな方法をとった。それは、どうしようもなく僕を苦しみから救うことしか考えていない方法だった。その、罰なんだろう。

「僕が、加東を好きになったからだよ」

 君に、嫌われたくなくて。つながりを残しておきたくて。
 僕は、加東の青い目を見据えて告白した。
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