If
きつねのこ
今でも、考えることがある。あのときにそう感じたのは、なぜなんだろう。
***
ゴミ置き場にての会話だ。
「赤いきつねって、なんで赤いんだろう」
「緑のたぬきと対比させたかっただけだろ」
「え、それだけ」
初めて会った日から数週間。ゴミ置き場でのやりとりは、たわいない会話に終始したまま、ずるずると時間を過ごしている。互いに顔は見ていない。ゴミ山の反対側で言葉をかわすだけ。僕らは、一日二日連続でゴミ山に来る日もあったが、三日空けたり適当に気が向いたときに来ていた。向こうも同じようで、彼がいないときもある。そのときはゴミ山を漁って楽しむだけだ。
「ねぇ、そういえば名前聞いてないね」
「そういやそうだな」
「あはは、気付かなかったんだ」
ふいに思い出して言葉を投げかける。彼の言葉を途中で遮る形になったが、気にしない。それに彼も気にしてないみたいだ。
「呼ぶ必要なかったから忘れてたんだよ」
確かに。僕は彼が言った理由に自分も当てはまることに気付いて、同意した。ちょっと呆れたような空気。どうやら、さっきの発言を根に持っているらしい。
僕は気をそらせるために名前を告げようと口を開いた。
「あー、なんか聞くのめんどくせぇ。適当にみーって呼ぶわ」
「えー、それってゴミのミでしょ」
「バレたか」
あはは、と軽く笑う。だから、僕は仕返しに彼をごーくんと呼ぶことにした。最初はダストくんとかカッコいいよねって話してたんだけど、大反対された。お前は中二か、だってさ。
「あ、ごーくん。もう塾の時間だ」
「バイトか」
「うん。適当なこと言って山勘しゃべるだけのバイト」
「おいおい」
「冗談だよ」
じゃあね。僕は今日の戦利品を秘密の隠し場所に置いて、鞄を手に立ち上がった。後ろから頑張れよという声が追いかけてくる。
くすりと笑って歩き出した。
(Daily life accumulates.)
(Nonsensical conversation)