maskingtape
021
店員のやる気のない台詞を背に受けながら、夕焼け色に染まるゴミ箱の前で立ち止まる。どのコンビニにも見られる定型のそれらの剥げかけた文字を見て、手元のビニル袋を持ち上げる。中身は、新発売と書かれポイント値引きをされたお菓子だ。高級感のある黒地に箔押しの装丁から、つい手が出てしまった。先日の泰正を思い出す。あのあと、コンビニで会い、竜崎少年のことを聞いた。歯切れの悪い台詞の中で、わかったのは、竜崎は、自他共に厳しい人間であること。
高校サッカー部の中で、主将を務めるような、リーダーシップがあるタイプ。リーダーをつとめる人間には、二種類あるが、彼はカリスマ性をもっているほうだ。ワンマン社長に多い。そんな印象を持った。ただ。
お菓子の箱を開けながら、考える。それは、泰正から聞いただけの印象である。実際は、どんな人間かは、もっと話してみないとわからないだろう。見た目が優しくて、言動も優しい人間も、裏ではどんな風に考えているかはわからない。そんな人もいるのだから、他人が話した第一印象で判断することは悪手だった。
それでも、ひとつ、わかっていることがある。それは、太一にとって、対峙するのにひどく緊張感をしいられる人間であること。
太一は、中から出したチョコレートの個包装を開けて、紙マスクをずらす。ダークと書いてあっただけあり、カカオの味が濃い。生チョコを食べたことはないのだが、こんな味になるのだろうか。そんなことを考えて、少し柔らかい食感のお菓子を堪能した。
「あれ、菊井くんだ」
時計を見つつ、お菓子を頬張るうちに、後ろから聞き覚えのある声をかけられた。太一が振り返ると、青のジャージに身を包んだあのときの少年。泰正を呼びに来た、竜崎翔太。
「こ、こんにちは」
軽く会釈すると、竜崎はにっこり微笑んで、かぶっていた帽子を持ち上げる。そうして、そのまま太一の隣に並ぶと、手元を覗き込み驚いたように声をあげた。
「あっ、今日発売だったのか。これ、ファンなんですよ」
美味しいでしょう。にっこりと微笑んで、じっと太一の手元を見る。そうしながら、このメーカーのチョコレートについて、おいしい理由を簡潔に話してくれた。あまりに詳しい解説に、本当にファンであると感じ入る。そこのコンビニでまだ残っていたと伝えれば、彼は、軽くスキップするように手早くコンビニに入り、同じものを三箱も提げて帰ってきた。
この間、太一の口の中のチョコが溶け切るまでである。
「……甘党、なんですね」
「甘党なら、俺よりも十津川ですよ」
ふ、と笑ったような音。初対面の印象のせいか、彼の手元ばかりに視線がいってしまう。せっかく話をしているのに失礼だろう、と感じながらも、突然現れた竜崎をまともに見ることができなかった。そんな太一に気付いたのか、竜崎は苦笑をこぼす。
「あんな風に怒ってるの見たら、誰だって怖いですよね」
「や、ちが、えっと」
「誤魔化さなくていいですよ。十津川みたいに鈍感なつもりはありません」