ねことばか

003

『やめてくれ。あのバカに昔も今も困ってるんだから』
『あっはっは…そうだな。にーちゃんは、透哉もトウヤも猫かわいがりだったもんなぁ』

 豪快な笑い声にがっくりうなだれる。しゃなりとした黒猫は、のんびりくつろぐ彼の隣で足を崩した。

 ウメという猫が、本当に兄貴分のような性格をしていると知ったのは一年ほど前のこと。事故に遭ったと思ったら猫になっていた透哉の話を聞いて、否定も肯定もすることがなかった猫たち。大変だね、と興味津々に根掘り葉掘り聞くものもいれば、素知らぬ顔で何も言わない聞いてもいないものもいた。その中で、このウメだけは特別だった。

 彼は、地域の中で一番大きな猫でありボスでもある。そして、猫好きの元友人にとっても顔なじみであった。もちろん、幼馴染として付き合いの深かった透哉とも。

 話を聞いてすぐにぴんときた彼は、原因よりなにより今の生活を確保することを優先させ、元友人の前に透哉を引きずり出した。酷い怪我を負い、目やにを溜めて弱々しく震える透哉を見て、元友人が即決で飼うことを決めたのは言うまでもない。

 そして、今もこうやって時々話を聞いて、透哉が透哉であることを確認させてくれる。また、時折、情報の提供もしてくれていた。

『猫かわいがり、ねぇ…』

 脳裏に浮かぶ、高校生時代の思い出。出来の良かった元友人に勉強を教えて貰ったり、体育でレクチャーを受けたりしていたが、とにかく二人で笑いあっていた。

『おうともさ。あれは、俺らが子猫を守るようにも見えたぞ』

 はふぅ、と息をつく。それでも、元友人にとって透哉は友達だ。もしかしたら、年下の弟を世話する兄のような心境だったかもしれない。なんにしろ、透哉にとってそれは少々喜べないものだった。

 溜息とともに押し出された言葉に、ウメの耳が反応する。それを視界の端に捉えたが、次の言葉がかかることはなかった。

『今は、猫だから猫かわいがりに疑問はないけどな』
『そりゃな、猫だからな』

 なぁん、なぁんと呼び交わす二匹の顔は、どこか達観している。のんびりとした二匹は、太陽を追いかけて移動しながら他愛もない出来事を語り合った。

『あ、俺さ。ウメと話せるようになれて嬉しいよ』
『なんだい、そりゃ。突然だな』
『いや、人間だったころから、ウメと話したいなって思ってたんだよ』

 貫録のあるぶちの猫。目つきの悪さも、親分らしさに拍車をかけている。人間なんかを気にするつもりはない。そうやって気ままにあくびをする姿。猫らしい猫で、一度はどんなことを考えているのか聞いてみたかった。

「ト・ウ・ヤー!」

 夕暮れも近くなり、宵闇が徐々に夕陽を飲み込んでいく時間。遠くから聞こえたそれに、二匹の耳がそよいだ。

『ご主人が呼んでるぞ』
『…うん。また、話そうな』

 にゃおう。貫録のあるぶちは、一声鳴いて目を細めた。主のふわふわした声が再び聞こえてくる。たしん、としっぽが地面を叩いて、黒猫は塀を飛び降りた。

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