harmoney

001

!竹内視点のお話

 ふいに吹き込んできた木枯らしにネックウォーマーを握りしめて冷えた空気を追い出した。灰色の橋がかかる沈んだ色の川を渡り、服や小物、食べ物を売る小さな店が並ぶ通りに入る。駅から少し行ったところ、商店街の最後。郊外で、駅からも遠い場所。そこにあるのは、小さな楽器店だ。店主の趣味が高じて出来上がった店は、明るい外観でポップや看板が通りに出されており、入りやすい雰囲気が作ってあった。

 店内の楽器を見やすいように、と大きなガラスが店内に光を投げかける。真ん中に誰かにデザインしてもらったらしい小淵楽器店という店名が白くプリントされていた。

 竹内は、隣に設置された自動扉には目もくれず、ただショーウインドウを兼ねているそこから店内を眺めた。

 ガラスの向こうに並べられた色とりどりでさまざまな形をした音を眺める。奥には、教本やチューナーなど楽器を使うときの補助があり、椅子が置かれた場所の近くにはアンプと譜面台、誰かが弾いていたらしいエレキギターが無造作に置かれていた。

 カウンターに目を向ける。二人の女性客が頬を染めながら、男性店員に話しかけている。流行りの髪型に垢抜けた私服の上からシックなエプロンをつけた、若い男性。それなりに整った顔立ちの上、本当に楽しそうに親しそうに微笑んでいる彼。声が聞こえることはないが、自在に動く喉と口が見える。

 ぐ、と指に力が入った。する必要がないのに、ネックウォーマーを整えて、目を閉じる。かすかに聞こえてくる、歌声。複数の声が重なり合い響き合い、美しいハーモニーを作っていた。何を歌っているかまではわからないものの、鮮明に思いだされる彼女の優しげで楽しげな表情。

 いつのまにか噛みしめていた唇を開放し、前を見る。ふと、あの店員と目があったような気がしたが、彼は未だ数人の客と会話していた。

 歩きながら、喉に手を当てる。ウォーマーの奥にある小さな穴。今の竹内にとって、欲しくてたまらないのに手に入れられなかったもの。手を当ててみる。息を吸い込む。

「うたいたい」

 零れたのは、掠れてちぎれてぼろぼろの声。ノイズだらけのそれを拾わないように、ウォーマーを耳まで伸ばした。
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