二番目の2人



『俺、医者になる!』

『私のほうがいい医者になるわ。』


それは、遠い遠い昔の話…







久しぶりにみんなとラウンジでお茶をしている。

凜々蝶もいるけどたまにはいいよね。

(…私もそんなに長くないし。)

「俺って不良に見えないのか…!?」

「ぶふぉっ!」

卍里の唐突な一言に紅茶を吹き出す


「逆に君のどのへんが不良なんだ?」

「何…っ!?」

名前は笑いを堪える事ができずにただ肩を震わせていた

「俺はタイ焼き頭から食べちゃうんだぜ!」

あ、もうヤバい…

「夜露死苦とか言っちゃうんだぜ!」

書かなきゃわかんないよ…

「舎弟達と集会開いてんだぜ!」

舎弟達ってゲートボールしてるお年寄りだよね

「盗んだバイクで走り出す為に免許を取得するべく、家の手伝いしてんだぜ!」

もう、我慢できない!


「素直でかわいいよ、卍里!!」

飛び付いて抱きつく真っ赤になる卍里


「卍里かわいいー!」

「は、離せよ…」

「名前、渡狸くんが苦しそうだぞ。…それにしてもなんで突然気にし始めたんだ?」


「……学校で反ノ塚に会った時…」

名前の腕から逃れた卍里が苦々しく話し始める




「クラスの奴らが『反ノ塚先輩と喋れるなんてすげー』って初めて一目おいたんだ!」

「反ノ塚はカタギに見えないからかな…」

「連勝は見かけ怖いからね。」

「えーみんなひどーい。」

カルタは話に加わらずプリンを食べている


「反ノ塚だけじゃねぇ…名前もだ!」

ビシッと指を指す卍里

「え、私?」

「この間一緒に弁当食った後、それを見ていた他クラスの奴らが『名前先輩と知り合いなんてうらやましい!』ってみんな言ったんだぜ!何度も言うけど俺は不良だ!」

「そりゃあ、名前は人気者だからなーそのせいで俺もよく男子に絡まれるんだよ。」

「そうなの、ごめんね連勝。言ってくれればソイツ潰すよ?」

「いいです、ごめんなさい。」

「見てろぉ反ノ塚に名前!俺はお前たちを越えて見せる!」

捨て台詞を吐いて走り去る卍里。

「…私もそろそろいこっかな。またね!」

そういってラウンジを出るとエレベーター前に卍里がいた。


「…そんなに悩む事じゃないよ。」

「名前…でも…」

柄にもなく元気がない彼の頭を撫でる


「大丈夫、卍里は卍里だから。」

彼の顔は晴れなかったがエレベーターが到着したため2人とも黙って乗り込んだ






ピンポーン

「残夏いるんでしょ?開けて。」

返事がないためドアを叩き部屋の主を呼ぶ


「…そんなに叩かなくてもわかってるよー」

出てきた残夏は少しだるそうに言った

「様子見にきて正解だったね、具合悪いんでしょ?」

そういって部屋に入る名前


「ほら、お粥作ってあげるから寝てなよ。」

手に持っているのはフライ返しだけど…

「あのね、名前…あーやっぱりいいや。」

声をかけた時にはすでに遅く名前はキッチンで未知の物体を作り始めていた

(…普段は料理なんて絶対しないのにね。)

ボクのために料理してくれてるって自惚れてもいいんだよね?


「ね、クッキーも食べたいな。」

「…仕方ないな、じゃあ大人しく寝ててよね。」

「はーい♪」




「はい、あーん。」

ちょっと待ってよ、なんか黒いオーラが出てるんだけどそのお粥


「…今失礼な事考えたでしょ。」

「視たのー?趣味わるーい♪」

「はぁ?残夏が視せたんでしょ!」

「バレたー?」

怪しいお粥と少しまともなクッキーを食べきると残夏は言った

「…もうすこしだけここにいて」

「…わかった。残夏寝ててもいいよ」

「寝たら帰っちゃうでしょ?」

「なに甘ったれてんだか…」

呆れたように笑う名前

「さっきまで寝てたからあんまり眠くないんだー♪」

「でもゆっくりしてなよ?」

「はーい。」





机に置かれた写真立てに写っているのは幼い頃の卍里とカルタ

卍里は昔の事を思い出していた。


「何だよあいつら!豆狸だからってバカにしやがって!狐より狸のほうがなー日本昔話では高確率で良い奴なんだぜ!」

落ち込む卍里の隣でカルタは俯く

「聞いてんのかよーカルタ、何だよぼんやりして…カルタはいいよなぁ、強くて…」

「私は渡狸がうらやましい…かわいくて…」

「なにおー!」

カルタの言った言葉をそのまま受け取りすこし怒る卍里


「この間、お友だちとケンカしちゃったの。私怒って変化しちゃったの…」

「マジで…見られたのか?どうなったんだ?」

「怪我とかはさせてない…」

カルタは膝を抱えた腕に力を込めた


「でも怖がらせちゃった…驚いたよね…大人の人が『こちらで済ませるから心配しなくていい』って。」

卍里はカルタを見た

「だからもう怒んないようにするの…気持ちを遠く遠くにするの。」


いつも笑っていて強い彼女の横顔が悲しそうで弱々しそうで

「…カル…」


でも俺はちっぽけで慰めてやることも手を握ってやる事もできなくて差し出しかけた右手を力なくただ見つめていたんだ。





「卍里…まだ悩んでいるんだ。」

隣で寝転ぶ残夏に目をやると彼も難しい顔をしていた

「僕にはわかるよ、渡狸の気持ち。」

「え?」

残夏は天井を見つめて言った


「僕は弱いから大好きな人を護ってあげられない。大切な人がいなくなるのを見ている事しかできないんだ。」

残夏は右手を天井に向け力なく微笑んだ

「だから、渡狸の気持ちがよくわかる。自分の無力さがすごく嫌で強い彼女に守られている自分が惨めで…」

私は、なにも言えなかった。


だから…

「名前…?」

「そんな事言わないでよ…私は残夏がいてくれるから毎日笑って過ごせてるの。惨めなんて言わないでよ…自分の事を嫌なんて言わないで…」

私は残夏の身体にまわした腕を緩めた

「弱くてもちっぽけでも残夏は残夏だし、卍里は卍里。それは何者にも代わることはできないよ…」

「名前…」


君はいつでも僕の欲しい言葉をくれるんだね。

「ありがとう、名前。」


『僕も君に代わる人はいないよ』

口から出そうになった言葉を飲み込んで残夏は名前の頭を優しく撫でた






「―そんな訳で俺しばらく不良続けるぜ!」

僕の部屋を訪れた渡狸は唐突に言った

「俺がカルタの為にできる事が判んなくなってさ、だから一先ずは不良続ける!」

「へ〜…で、わざわざそれを言いに来たの?」

「俺が本気で不良やめるんじゃないかって心配だったろ?」

「渡狸はそゆとこお坊ちゃんだよね〜」

そっか
渡狸は自分のできる事を、

彼女のためにできることを見つけたんだ。


「キミはホント無駄に一本気で尽くすんだけど方向が明後日なんだよね〜」

でも、そんな単純で真っ直ぐな所がうらやましい

「なにおー!」

「だってホント…」

一瞬、意識が薄れて僕は渡狸に支えられていた


「おい、残夏!残夏!」

ふふっ、キミは相変わらず…

「ケチャップ…」

大袈裟でからかいがいがある

「ば、バカ!ふざけてる場合か。大丈夫なのか!?」

「大丈夫だよー☆ただの貧血だから心配しないでよ〜渡狸に心配されるなんてまっぴら…それに、」

残夏は部屋のなかで自分のベッドを占領して寝ている彼女を見ていった

「名前にこれ以上心配かけられないからね。」


「名前、来てんのか?」

「今寝てるよ」

「…そっか、じゃあ起きたら伝えておいてくれよ、『ありがとう、俺はもう大丈夫』って。」

「気が向いたらね〜ほら、もう帰ってよ〜」

「なっ、伝えとけよバーカ!レバー喰え!おやすみ!」

レバー喰えって…

本当に変わらないな。



キミも名前も

ベッドでは規則的な呼吸をしている名前




『俺、医者になる!』

『卍里には無理、私がなるのよ。』

『なんでだよ!やってみなきゃわかんないだろ!』

『わかるわよ、単細胞には無理!』

『むきー!』




遠い昔の事をふと思い出してみた

渡狸は今回は自分のために生きてくれるかな?

名前にはまた迷惑をいっぱいかけちゃってるけどね。




「僕はキミに"今"を生きていてほしいだけなんだよ、名前。」


誰のためでもなく自分の人生を歩んでほしい。

僕が言える立場ではない傲慢な願いだけど、いつか…



できるだけ早くその時が来るのを誰よりも願ってるよ。

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