探していたもの



「それから、刹那さんが亡くなった理由ですが…」

凜々蝶が帰ったあと双熾は話を続けようとしたが先程と違い明らかに落ち着きがない。そんなに動揺するなら私を置いて凜々蝶の所に行けばいいのにそれを伝えられないのは私が我が儘だから

行かないで欲しい、私を見てほしい。その気持ちだけで私は意識を話に集中させた


「その、申し上げにくいのですが…」

その先は知っている

「私が殺した、知っているけど?」

「ご存じだったのですか?」

「夢で見たの、誰かを殺すシーンと双熾を置いていくシーンを何度も。」

名前は自嘲ぎみに笑った

「だからね、薄々気がついてたりしたのよ。刹那のこともあなたの事もね。」


ねぇ、刹那

私が探していたのは双熾だけじゃなかったんだね

失った過去とあなたとの日々

忘れていた大切な記憶

やっと、思い出せた


「だから、もう大丈夫。」

やるべき事は見えた

「名前さま…僕はあなたが…」


「言わないで…!」

あなたには凜々蝶がいる

私にも守るべきものがある


「名前、さま…」

「だから、さ。」

今度こそ救ってみせるよ、刹那



「全部終わったらまた話そう。」

「…はい!」

「じゃあね。」

名前は部屋を出た






「…やっぱりあなた達なのね。」

朝からやけにエレベーターが上る音がするから来てみれば蜻蛉に馬乗りになって刀を突きつけている双熾


エレベーターで一緒になった凜々蝶も驚いているようだ


昨日の事があったからか何も話していないが…


「おはようございます、凜々蝶さま、名前さん。」

「おはよう、我がビッチと私の名前!」

「2人ともおはよう、良い朝ね。それと私は蜻蛉のものじゃないから」

「いらん!挨拶など。」


そっか、凜々蝶に話すか話さないかで…

最近意識しなくても視えるから疲れるんだよな


「いや、同罪というべきか?」

考えている間に話は進んでいて

「その男、他人を化かすのが得意だが貴様に嘘はつけないだろう。もっとも、前の主人も同じらしいがな。」

蜻蛉はこちらを見た

「それでもこの男と言葉を交わすのだな名前。」

「…化かされる理由があったし、今更な話だわ。」


「ほう、では名前も化かすのか?」


ドキッ

「理由があれば、ね。」

「…そうか、」

蜻蛉はフッと笑った

「ならば理由を話す相手がいるのではないか?」


頭の中に1人のウサ耳男が浮かぶ

「蜻蛉、あなた…」

「早く行け、でないと私が名前を傷つけてしまう。」

蜻蛉は背を向けて言った


「…ありがとう。」

名前はエレベーターに駆け込んだ



「…私だって行かせたくない。」

それでも彼女の幸せを願いたいなんて、私は愚かだな




エレベーターを降りてラウンジに行くといつものメンバーがいた

その中には

「…残夏!」

「あれー?どうしたのー?」

いつもみたいに名前は呼んでくれない

「話があるの。」

「…この前の事?」

残夏が口元から笑みを消して言う


名前が頷くと残夏は渡狸に言った

「ボク、ちょっと行ってくるから大人しく待っててね?」




「その、双熾の事だけど…きちんと話して納得した。」

残夏は全部知っているはずだから

「それで?」

「薬の事は…謝るつもりはない。私は、もっとみんなといたいからあの薬を使う。」

残夏はもう笑ってなんかいなかった

「…謝ってほしかったわけじゃないんだ。」

残夏は名前を引き寄せて腕の中に閉じ込めた

「ボクだってそれぐらいわかってるよ、薬の事は怒っていないしね。」

「じゃあなん…」

「なんでボクを頼ってくれなかったの?ボクじゃ頼りない?」

残夏は腕の力を強めた

「もっと頼ってよ、信頼してよ。1人で抱え込まないでよ。」

「ざん、げ。」

残夏の声は微かに震えていた

「…ごめんね、残夏。ありがとう。」

残夏の腕の中はなんだか懐かしくて温かい気持ちになれた


名前は残夏の背中に手を回す

「いやん、名前ったら積極的ー♪」

「…ばーか。」

名前を呼んでくれた事がうれしくて

昔みたいでくすぐったくて

何故だか涙が出た


「…泣けるようになったのはそーたんのおかげ?」

残夏は寂しそうに笑ったが腕の中の名前には見えない

「そうかもね、でも残夏だからだよ。」

「…それはどうも。」


小さな言葉だけど

期待してもいいのだろうか

君はみんなを大切に思っていてきっと順番なんてつけていない

ボクは君だけが一番だっていったら

君はきっと笑うんだろうな。






「蜻蛉!」

残夏と別れた後、玄関を出ると蜻蛉が車に乗り込もうとしていた

「蜻蛉!」

蜻蛉は名前に気づくと運転手に何か言い、車を降りた

「残夏とは仲直りできたのか?」


やっぱり蜻蛉は全部知っていたんだ

「うん、蜻蛉が背中を押してくれたおかげだよ。ありがとう。…でもなんでわかったの?」


「名前、私と一緒に来ないか?」

蜻蛉は質問に答えずにそう言った

「私が行くと思う?」

「フハハ、それでこそ名前だ!旅先から写真を送りまくる私ドS!」

蜻蛉は笑っていった

「ねぇ、だからなんでわかったの?」

「そんなの見ていればわかる。」

「…え?」

「背中を押すのは私自身嫌だったのだ、名前を行かせたくなかった。」

蜻蛉は仮面をとって言った

「か、蜻蛉?」

蜻蛉の顔が近づく



「…誰だって好きな女からは離れたくないだろう?」

おでこに温もりを感じると蜻蛉は離れた

「それだけだ、また会おう名前!」

仮面をつけると蜻蛉は行ってしまった



「おでこに、キス…」

玄関前には顔を真っ赤にした名前が立っていて残夏に見つかりからかわれるのはまた別のお話

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