ほんとうの契約


「…僕には関係ないが、君は情もないのに優しくできるのか?」

返事がないため、凜々蝶は続ける


「そんなもの空しいだけだ…彼女に対して不誠実だと思わなかったのか?」


「申し訳ありません。」

ちがう、

「それは肯定か?」


「…申し訳ありません。」

ちがう。


「凜々蝶さま…っ」


僕が聞きたいのはそんな言葉じゃない!


「凜々蝶さまが仰るならもうしません。」


「それが不誠実だと言ってるんだ!知らなかったな、君がそんなに不浄だったとは…!」


御狐神くんは驚いたように目を開いた

エレベーターが登る音だけが響く


「仰る通りです。僕は本来こうして貴女にお仕えできるような者ではありません。貴女と出会えて浮かれて忘れていたようです。」


聞きたくない、


「僕では凜々蝶さまのご期待に添えないかもしれません。」

…聞きたくない


「ほう…つまり契約は解消か?」

僕が言いたいのは…


「凜々蝶さまが望むのでしたら…」

「そうか、今までご苦労さま。」


僕が聞きたかった言葉は

僕が言いたかった言葉は


あんな事じゃなかった。

何であんな事を言ってしまうんだ

僕には関係ない事なのに


そうか、


きっと彼女と自分が重なったんだ

情もないのに作り笑いを向けられていた自分と…

欲しいものはそんなものじゃないのに

彼は僕自信を見てくれて心から親切にしてくれてる

だけど彼も情がないのに平気でああいう事ができる人だった

それが怖かった

僕の人間不信を彼にぶつけただけだ…








「あら、双熾。」

いつもの仕事を終えて妖館に戻るとラウンジには御狐神がいた


「浮かない顔ね、なんとなくわかるけど凜々蝶に解雇でもされた?」

御狐神は小さく頷いた


「…まぁ、仕方ないわよね。彼女の一番嫌っていることを貴方はしてしまったんだから。」

「…わかっています。自分の身勝手な行動が凜々蝶さまを傷つけてしまった。SSを解消なされるのも当然です。」


御狐神の手元には紅茶

凜々蝶にもっていくつもりだったのだろうか。

御狐神は名前の視線に気づいたのか言った


「…苗字さま、春先とはいえ外はまだ冷えるでしょう。お飲みになってください。」


差し出されるのはすこし冷めたハーブティー

それを受けとると名前は言った


「双熾…私と組まない?」






「凜々蝶ちゃん、おはよ。」

そう言って部屋に入ってきたのは雪小路さんだ



パーティーの準備を手伝ってくれると言う

悪態をついて不快な思いをさせてしまうのではないかと心配していたが彼女は気にしないで、といってくれた

髪をとかしてもらっていると微睡みはじめた

意識が飛びかけたとき彼女から驚きの言葉が発せられた



「御狐神は名前ちゃんと組むみたいだしあたし達も組まない?凜々蝶ちゃん。」


えっ。

御狐神くんが、


苗字さん…と?


「ふんっ、御狐神くんが苗字さんと組もうと僕には関係ないが元々SSを雇うつもりはなかったんだ。」

「でも御狐神とは契約したのね。」


鏡越しに目が合うと彼女はニコリと微笑んだ

「じゃあ早く仲直りできるといいわね。」


僕は、なにも言えなかった









偉そうにしてるのは虚勢なのさ


『うん』


空しいなぁ

こんな華やかな席でも独りだぜ


『うん』

まあ性格が酷いからな


『うん』

あいつに媚びてんのはあいつの金とか家柄が目当てなのさ


きっとSSだってそうだ


『…うん』

バシャッ


「「えっ」」


僕が振り替えると水に濡れた男女3人とグラスを持った御狐神くんだった


「な、なにをするのよ!」

女生徒が悲鳴を上げる

「…すみません、あまりにも」




御狐神くんは顔をあげて言った


「腹が立ったので…」


僕がこんな御狐神を見たのは二度目


一度目は強盗が入ったとき

二度目は、今目の前にいる彼がそうだ

いつも僕に向けていた目とは違う瞳


あぁ、そうか。

バシャッ


「これで如何かな?」


僕は自分でグラスの水を被った


「君は天然で体制を繕わないだけなんだな。」



こういうのは慣れないけれど

「御狐神くん、」


きちんと言いたい


「…ありがとう。」










「寒っ!」

「もう、名前ちゃんたら無茶して…本当によかったの?」

濡れた髪を野ばらが持ってきてくれたタオルで拭く


「なにが?」

「御狐神。」


野ばらは続けた


「あなたにとって御狐神は…」

名前は手を上げた

もういい、と言うように


「それが彼の望みだから。」


でも水をかけられるのは想定外だったな。

「服も着替えなきゃね、いつものスウェットでいい?」

野ばらが汚いものを見るようにスウェットを差し出す

「今日はそれじゃダメなの、野ばらのセンスで服を選んでちょうだい。」

野ばらは目を輝かせて服を取りに行った




「あなたの幸せが私の幸せ…」

私のせいで終わってしまった彼の人生に報いる事が出来るのだろうか


双熾、あなたは私の…

ピロリンピロリン♪


「もしもし、うん…うん、わかった今から行く。」

丁度よく野ばらが服を持ってきたので着替える


「なにこのフリフリワンピース…」

「メニアックぅぅぅ!」

「ごめん、今日は急いでるからまた今度ね。」

なりふりかまってられない

行かなくちゃ


「いってくる、帰りは遅いかも!」

名前が出ていった扉を見つめる


「御狐神の事、本当に大切なのね名前ちゃん。」












「留守電カルタちゃん?なんだって?」

「…今日始業式だったとよ。」

「なにしてんの君はー」

「うっせ!お前こそアイツから連絡きてないのかよ。」

「フフッ、ひ・み・つ。」

「んだよ…」


コンコンッ

車の窓を叩く人影ひとつ



「おかえりなさい!残夏、卍里元気にしてた?」

「名前!お前どうしてここに…危ないだろ!」

「卍里相変わらず過保護だね。」

「あだ名たんより弱いくせにねっ!出迎えありがと、とりあえず乗りなよ。渡狸前いってー」

「はぁ?なんで俺が…」

渋々席を変わる渡狸

「久しぶりだね、残夏。」


そっと隣に腰をおろす



「あれー?お帰りのハグはしてくれないのー?」

「馬鹿じゃないの?私達はもう…」

「運転手さーん、ここでーす!」

「ったく…」

「カルタが言ってたけど妖館に新しい住人が入ったんだろ?」

「うん。」

「どんな子なの?」


どんな子か…強いて言うなら

「おもしろそうな子だよ。」

いろんな意味で。

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