太刀川と風間と呑み交わす。

「お、」
「あ、」
「ん?」


上から蒼也君、太刀川君、私だ。本部の廊下でばったりと出会した私達は、直接戦闘はしなかったけどつい昨日ばちばちに戦った仲である。まあ別段気まずさは感じないけど、人の顔を見るなり指を差されては首を傾げてしまう。なんだろう、と首を傾げているとずかずか近付いてきた太刀川君に思い切り肩に腕を掛けられた。あら、捕まっちゃった。


「なまえ、今日俺と風間さんとで呑み行こうって話してたんだけどよ、来るだろ?」
「太刀川、なまえにも都合はあるだろう。…で、来るのか?」
「え、ええ……。」
「今日は東さんも非番って話だったな。」
「待って待って、東さん来るなら行かない。」
「ちッげーよ、酔ったお前が東さん呼ぶんだろ。」
「…記憶には無いけど申し訳ないとは思ってる。」


二人との会話から分かる通り、私は東 春秋が苦手だ。と、言うのも、あの人はことあるごとに私のことを甘やかしてくるのだ。東さんが狙撃手としてのいろはを教えてくれるという合同訓練でも、目敏く私を見付けては何かと気にかけてくれる。いっそ、冬島さんくらい雑に扱ってくれた方が楽だ。何分、その、甘やかされるのに慣れてない。だからこそ、どう対応したらいいのかが分からない。絶対に変な顔をしているし、優しい大人の顔をして頭を撫でられたら人目など気にせず泣きそうになるから、やめて欲しい。とは言え、別に東さんは嫌いじゃない。苦手なだけ。とても良い人だって分かるし、三輪君と東さんを見ていてもそう思う。


「絶対に東さん呼ばないなら、行こうかな。」
「それはなまえ次第だろ。」
「そこは止めてよ〜。」
「なまえ、酔っ払うとクソ我儘になるの知らないのか?」
「嘘…禁酒する…。」
「俺はそんななまえも可愛くて良いと思うけどなあ〜。」
「そうだな、たまには良いんじゃないか?」
「蒼也君まで…。」





わいわい、がやがや、賑やかな居酒屋でどんっ!とビールジョッキをテーブルに叩き付けたのは太刀川君だ。実に美味しそうに喉を鳴らして飲むものだから、一度一口貰ったことがあるんだけど、吃驚するくらい苦くて顔がきゅうって中央に寄った。もう二度と飲むものかと思いながらも、やっぱり美味しそうに見えるのだから不思議だ。こう言うのを呑みっぷりが良いと言うんだろう。その隣で、蒼也君もごきゅごきゅとビールを呑む。年齢確認?されてたよ。私?されたよ。されながらもカルーアミルクを頼んだよ。太刀川君がテーブルをばんばん叩きながら大笑いするものだから、蒼也君から拳骨を喰らってた。


「いやあ、二人とも今回の遠征もお疲れ様。あと昨日も。」
「そう!昨日!なまえ来んなら教えろよな、俺が斬ってやったのに。」
「どうせ、迅に頼まれて来たんだろう。なまえも大変だな。」
「ははは、でもずっと言ってた近界民への恩返し、やっとちょっと出来たかなあって。」


そう、この二人には言ってある。と言うのも、この二人とは何かとお酒を共にする事が多くて、お酒に飲まれて判断力が低下した私がぽろっと言ってしまったのだ。それでも態度を変えるどころか「なまえがボーダーに居て、一緒に戦えんならそれで良い。」だの、「俺には理解は出来ないが、なまえにとっては大切な事なんだろう。」と受け入れてくれた。それが嬉しくて嬉しくて、しなくてもいい身の上話までしてしまった。なので、私の過去を知っている数少ない人達なんだけど、それを伝えるに至った経緯が経緯なだけに少し恥ずかしい。お酒好きなのに、お酒弱いのどうにかならないかな。

串から外した焼き鳥をちまちまと摘みながら、追加注文したお酒に手を伸ばし、遠征先での思い出話を聞いていた辺りでその日の私の記憶はぷつりと途切れた。




──人は、酔っ払うと普段抑制されている物が表に出てくると言ったのは何処の誰だったか。向かい側でぴえぴえと泣き出したみょうじ なまえを見詰めて風間はそんなことを思う。何時からだったか、呑むとなればこの三人で集まる事が習慣化し始めた頃。突然なまえが「東さん、東さん!」と泣き出したのだ。初めこそ戸惑った二人だったが、慣れてしまった今では慌てず騒がず東に連絡を取り、三人で呑んでいる居酒屋へと顔を出して貰う事にしている。そのため、東が非番の日であるかどうか、事前に確認が必要なのだ。


「ほぉらなまえ〜、会計済ませに行くぞ〜。」
「や、やだっ、東さんが来なきゃなまえは帰りません!」
「東さんならもう来るそうだ、表で待つぞ。」
「ほら、立てるかぁ?」
「たてる…っ!」
「よぉしよし、あんよがじょーず、あんよがじょーず。」
「うえええぇ゛、」
「こら太刀川、あまりからかってやるな。」


片手でなまえの手を引きながら、半泣きでよたよたと歩くなまえの事を携帯で動画撮影している太刀川を風間が窘める。が、そんな事何処吹く風と言わんばかりに気にも止めず其の儘会計係の風間を置いて二人で店外へと出る。途端、温かい店内に慣れていた身体に冷たい外気が触れ、ぶるりと身震いをしたなまえは太刀川を風避けに使うためにそっと身を寄せた。普段のなまえなら、年下の太刀川を風避けにするだなんて絶対に有り得ない。そんな、普段よりもほんの少し自分本意で、我儘で、甘えたになるなまえを見れるのは成人済の自分達の特権だと思うとにまにまと頬が緩んでしまう。あの、なまえが盲信している迅ですら知らない姿だ。愉悦感が腹の底を擽って来るのを感じながらなまえの旋毛を見下ろして居ると、自動ドアが静かに開いた。会計を終えた風間が白い息を吐きながら二人に近付けばそれに気付いたなまえが風間の方へ行こうとするものだから、思わずといった感じで薄い腹へと両手を回し後ろから身体をホールドした太刀川に、何をしてるんだと言いたげな風間の視線が刺さる。が、きゅるきゅるとした瞳で自分の方を見ているなまえに気が付けば、風間は普段よりも幾分か目尻を柔げた。


「寒くないか、なまえ。」
「寒くない様にってくっ付いてやってるんだろ。」
「えぇ、寒いよ?」
「…だろうな。」


僅かな時間外で待機していただけで真っ赤になっている鼻先を軽く撫でながら小さく笑う風間に釣られて、何が可笑しいかも分からずにからからと笑うなまえ。何となく蚊帳の外な気がして、大きな背中を丸めてなまえの頭へと顎を乗せて気を引こうとする太刀川。そうすると、腹に回した手をよしよしと撫でてくれるから、こんな酔っ払い方をしていても結局なまえはなまえなのだなと嬉しくなる。


「悪い、遅れたか。」
「いえ、お疲れ様です。」
「東さん、毎回毎回呼び出されて嫌になんねえんすか?」
「はは、まあ、こんな時じゃなきゃ構ってやれないからな。」
「ほらなまえ、東さんが来たぞ。」
「東さん?…東さん!」


東さん、その名前を聞いた途端にぱあッ!と笑顔の花を咲かせたなまえは、そのまま背景に花を飛ばしながら太刀川の腕から飛び出し、二人の元から東の元へと駆け寄る。其れを見届けてから太刀川と風間は一礼をして、なまえを東へと預けた。


「二人はどうするんだ?」
「俺達はこのまま家に帰ります。」
「東さん、後で動画共有するんで。」
「ああ、じゃあ二人も気を付けて帰れよ。」


ひらり、と胸の前で軽く振った東の手を両手で引き寄せそのまま握り込み、ふんす!と満足気にどや顔するなまえを見下ろし、普段からもその素直さを自分に向けてくれたら良いのにと思いながら、なまえを送り届けるべくボーダー本部へとゆっくりと歩を進めた。




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