大阪浪漫ストリート

「ハア?四天宝寺高校だと?」
「あれ てっきり第一声はお得意のアーン?かと思ったのに」

携帯電話の向こうの世界じゃヤツはきっとこーんな怪訝そうな顔をしてることだろう。あの氷みたいなブルーの瞳を逆三角にゆがめているのを目に浮かべながら人ごみをすり抜け進んでいく。えーと乗り換えの駅は…よしここだな。合ってる合ってる。

「んな事どっちでもいいんだよ。で?」
「あーうん、大マジ。てか大阪なう」
「なう?」
「現在大阪ってイミな」
「またおまえはワケわかんねー日本語を繰り出しやがって… 現在ぃぃ?!」
「やだ景ちゃんのリアクション王」

いつもは怒る景ちゃん発言にも突っ込まず、キングは大きな溜め息をついた。続けて何か言ってるみたいだけど周りの雑踏で聞こえません。そういやこの時間って氷帝は夏期補習中じゃないのか。

「…ったく挨拶ぐらいしていきやがれ」
「相談しなかったからって拗ねない」
「拗ねてねェよ。呆れてんだバカ」

くっそう、相変わらず口の減らない幼なじみである。大体バカって言った方が馬鹿なんだからな!心の中でアッカンベーしていると「にしても、」とヤツが言葉を続けた。

「そこって確か全寮制だろ。苗字財閥の御曹司がよく許してもらえたな」
「というより父様の差し金だよ。あと御曹司じゃねェ!」
「前の学校はどうした?」
「ぐっ それ聞くのなし」
「なに言ってんだ。締まりのねえ男は嫌われんぞ」
「景ちゃん…?だから」
「あ?お前、とりあえず移動しろ」

なるほど、そっちは煩くて仕方ねェってそういうことだ。手続きが終わったら掛け直すと伝えて電話を切り、辺りを見渡してみる。その個性的な風景を一言で言うならオモチャの国であった。自己主張の激しいカニやらフグやらで目がチカチカするけれど、目指すは我が転入先の高校だ。

四天宝寺大学付属高校。それが今回転入することになった学校である。文武両道という言葉に恥じることなく全ての領域で素晴らしい成績をおさめるこの学校は氷帝ほど金持ちが集まっているわけでもないため、今一番の人気校だったりする。まあただ一つの欠点に目を瞑るなら、だけど。

「なあなあ、あの人みてみ」
「うっわ!あかん、めちゃくちゃタイプや……」

四天宝寺前…はちょうど300円か。電車を利用するのは久々であるため乗り場の案内を凝視していると、ものすごーく自分がいろんな人から見られてる気がした。もしかして見ろよアイツださ〜いとか?だから見られてんのか、うわ!ごめんなさい東京のモンが偉そうに練り歩いてごめんなさい。あらぬ被害妄想を展開させながら進んでいくと

「(ぐぐぐグリコーっ!)」

大阪に行ったらみたいものランキングナンバーワンのグリコの看板だった。もちろん本物は道頓堀にあるので偽物のミニサイズだけど、やっぱ大阪へ来たからには同じポーズとって記念写真が撮りたい。だってここへ住むようになったら二度と撮れない観光客の特権じゃないか、でも一人でやるのは勇気いるかもやっぱりやめとこうでもやっぱり記念だしでもやっぱり、うああああ、

「あのーお兄さん?」
「誰かと待ち合わせやったりします?」

グリコの看板を見ながら撮るべきか悶々と悩んでいると、さっきからこっちを見てキャーキャー騒いでた2人組の女の子に声をかけられた。大阪は制服のスカート折らないのが流行ってるってのはいつの話だったっけと頭の隅で考えながらも、反射的にニコッと笑顔で返す。

「いや、違うよ?」

瞬間、二人の顔が真っ赤に染まった。おやおや何か恥ずかしがっている様子である。「え〜あんたが言ってや」「むりやし!まず直視出来んもん」こそこそ相談しあうのを見て、ピカーン!なるほどそういうことか閃いてしまった。

「写真か!いいよいいよ 並んで」
「え、あ」
「こういうのは恥捨てた方がいいよ。どうせならグリコポーズしとく?いくよーハイチーズ!」
「ほっ!…て「何させとんねん!」」

あれ違ったみたいだ。しかしノリ良いなさすが大阪。感心しているとようやく話がまとまったようで、片方の女の子が切り出した。

「あの!一人なんやろ?せやったらウチらと遊びに行かへん?」
「え?」
「大阪の街、案内したげるで!見たとこお兄さん観光っぽいし」
「…」

そ、そうきたかー!まさかこんな場面、グリコの面前で逆ナンされるとは予期してなかったわ。ああ予期といえばさ、ハリポタのエクスペクトパトローナ〜ムって『守護霊を予期する〜』って意味らしいよ。これじゃ緊張感ゼロだよねなんか日本語ダサい。

「あれ?聞いてます?」
「…!っとあー、今時間が…ね」
「なら!アドレス教えてくれへん?」
「あー、うーん…ごめんね」
「なんで?彼女おるん?バレんって」
「そうじゃなくて さ」

言葉を続ける。

「気持ちは嬉しいんだけど」

「女なんだわ、わたし」




その後のことはとにかく早かった。なんか超あやまられて超頭下げられてしまいました。あははは。いやいや良いんですよーいやいやそんな逃げなくても…って逃げ足はえーなおい。全力ダッシュか。グリコの面前で全力ダッシュなのか。

「……行っちゃった、」

昔っからなぜかわたしは男と間違えられることが多かった。今日は場所が場所なだけに戸惑ったけれど今みたいなナンパは珍しくないどころか、いきなり告白されちゃうこともある。そりゃ可愛い女の子は好きだけど、もちろんわたしにそっちの気はないからここ重要ね!断じてないからね!去年いた女子高でのバレンタインデーなんて苦々しい思い出だ。

えーとどうも、苗字名前っす!この通り見た目も名前も男みたいですが、生物学上、正真正銘の『オンナ』です。このたび東京の方から転校してきましたよ。で、そこのあなた!ちょっとお願いがあるんですけどね、

カメラ、お願いして良いですか?
あ、はい。全身写る感じで。とうっ!

(20110324 執筆)
そうです主人公はただのイケメンです。ということで始まりました四天連載。すでに設定だけ練って満足している感が否めないですが、ぜひ男の子でも通るお名前に設定してお楽しみ下さい。


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