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北海道某所に存在するファミリーレストラン『ワグナリア』。

個性溢れる店員の集まるいつもにぎやかで騒がしい、少し風変わりなファミリーレストラン、それがワグナリア。
今日もにぎやかなことには変わりはないものの、店内はいつもと少し違った雰囲気。

店員達はある話題で盛り上がっていました。



「今日だよね、伊波ちゃん!」

「あ、うん」

「帰って来るのずっと楽しみにしてたから嬉しいな」

「…うん、そうだね…」




「帰ってくるね、彼女」

「ああ、そうだな」




「遅いな…」

「もうちょっとで来ると思いますよ。パフェを食べながらのんびり待ちましょう」

「(土産はまだか…)」


うきうきする者、少し複雑そうな者、いつもと変わらない様子を見せる者、食べ物にしか興味のない者。
反応はそれぞれで。
けれどもその話題をする者の表情は、不思議とみな綻んでいた。


「早く来ないかな〜」

「一体何の話ですか?」

「あ、かたなし君!」

その話題を知らず、蚊帳の外にいた少年の問いかけに、身長が低く童顔のために小学生にしか見えない高校生の種島ぽぷらが気付いた。楽しそうな笑顔はそのままに皿を拭いていた手を止めて振り向く。
"かたなし"と呼ばれた眼鏡をかけた可愛くて小さいもの好きの少年、小鳥遊宗太は名前の間違いなど気にする様子は微塵も見せずにそのまま言葉を返した。


「今日はみんな先輩たちと似たようなこと話してて…」

ぽぷらの隣に立っていた男性恐怖性の伊波まひるは、小鳥遊を殴らないように念の為少し距離を取りながら口を開く。

「そっか、小鳥遊君は知らないんだっけ、柏葉さんのこと…」

「柏葉さん?誰ですかそれ?」

「柏葉さんはここでバイトしてる人だよ」

「ぎゃあっ!」

「相馬さん…」

首を傾げる小鳥遊の疑問に答えたのはぽぷらでもまひるでもなく、キッチンからひょっこりと顔を出した青みがかった髪を持つ青年だった。
彼、相馬博臣はぽぷらの後ろに隠れようとするまひるへの警戒は決して解かず、キッチンの中からカウンター越しにこちらの様子を窺っている。

「店長よりこの店で長く働いてるからね。俺と同い年だけど頼りになる子だよ」

「でも俺ここのバイト始めて大分経ちますけど、そんな人見たことありませんよ」

「うん、彼女は半年前からオーストラリアに留学してるからね。それで今日帰ってくるんだ」

「なるほど、それでみんな何だか落ち着かない様子だったんですね」

「かたなし君、かたなし君!紅音さんは凄い人なんだよ!」

相馬の話を聞いて納得した様子の小鳥遊にぽぷらが興奮気味に話しかけた。

「"凄い人"って恐ろしく個性的で変な人ってことですか?」

「違うよ!紅音さんは優しくていい人だよ。仕事のことでも頼りになるし、私の憧れの人でもあるの!」

他のワグナリアのアルバイトの面々のことを考えて問い掛ける。するとぽぷらはぷりぷりと怒りながら否定した。しかし、迫力は欠片もないどころか可愛らしいその様子に小鳥遊はにこやかに言葉を返す。

「憧れの人ですか?」

「そう!きれいでかわいくてかっこいいの!凛としてて、すらーっとしてて、ぼーんとスタイルも良くって!!ね、伊波ちゃん、早く会いたいよね!」

「…えっ!?…う、うん…」

突然話を振られたまひるは慌てて返事を返すが、その返事は釈然としないものだった。その理由は突然返答を求められたせいだけではない。
まひるは先程のぽぷらの言葉を思い出しながら、自分の胸元を見て複雑な気持ちになっていた。

「(…確かに柏葉さんは私も好きだけど…見てると悲しくなるのよね……)」

まひるがそんなことを考えているとは知る由もなく、ぽぷらと小鳥遊は会話を続ける。

「俺としては仕事をしてくれる人であればそれでいいです」

「さっきも言ったけど仕事に関してはすごいよ!紅音さんは見てると勉強になることたくさんあるんだよー」

「(……だってあの胸は私とって目に毒なんだもん)」

「そんなに仕事の出来る人なんですか?」

「(店長よりも大きいし…)」

「そうだよ!伊波ちゃんも色々教わりたいって言ってたもんね。クレームがあった時の対応の仕方とか…」

「(…それに比べて私は………………)」



「しっかりして下さいよ、伊波さん!」

「………えっ!?」

一人思い耽っていたまひるは、小鳥遊の大きな声で意識を呼び戻される。

「伊波さんはそんな小さいことを気にしても仕方ないんですよ!」

「…ちっ、小さい……!?」

先程まで自分が考えていたことと小鳥遊が口にした単語が結びつき、動揺するのと同時に、まひるの頭に一気に血が昇った。

「そうですよ!小さいことを気にするより先に…」

「…〜〜っそんなの、小鳥遊君に言われなくても分かってるわよ!小さいこと位!!」

「ぶっ!!」

そして再びその言葉を繰り返した小鳥遊を反射的に力一杯殴りつけると、まひるは両手で顔を覆いながらそのまま店の奥へと走り去る。

「えっ!あ、伊波ちゃん!!急にどうしちゃったの!?」

まひるの突然の行動を呆然と眺めていたぽぷらははっと気を取り戻すと、戸惑いながらもまひるの後を追った。

一方殴られた小鳥遊は床に手をつきながらフラフラと立ち上がる。そして、事の顛末をキッチンという安全な場所から見守っていた相馬に問い掛けた。

「また例のご病気ですか。………でもついさっきまで平気だったのに、そんな失礼なことを言いましたか、俺?」

「うーん、これは多分乙女心とかそういう類のものから来てるんじゃないかな」

「そんなこと知りませんよ。大体何が乙女ですか、年増の分際で」

「まあまあ、伊波さんが小鳥遊君を殴る回数は段々減ってきてるんだし。そんなこと言わずに頑張ってよ、小鳥遊君」












ワグナリアの日常
(君がいてくれればとりあえず俺は平和だからさ)



bkm
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