純白

▼Chapter1

(__You make a fool of me, don't you?)



「なあ、青い薔薇って知ってるか?」
雨上がりの人の行きかう大通り。果物を売り歩く女性や、サスペンダーを着てすました様子で歩く少年達を尻目に
黒髪に緑色の瞳、漆黒のロングコートを着た男――オークは立ち止まり、振り返らずに尋ねた。
「僕を馬鹿にしているのですか。Blue roses―――花言葉は不可能。
いかなる技術を持ってしても、その色を表現し得ない事からこの花言葉がつき、」
答えたのは彼の部下、真っ白な髪に薄灰色の瞳、白のコートを着たオークより少し若い青年――シーカーだった。
その声だけでオークには彼が不機嫌であることがわかった。機嫌が悪い時、シーカーの話は長くなる。
「あー、いや、いい。なんでもない俺が悪かった!話す時期を間違えたな……」
オークは黒い手袋をはめた腕で、ボサボサの頭をボリボリと掻いた。
「なんですか。言いたいことがあるなら単純明快に言ってください」
シーカーの、文句ありげな薄灰色の瞳が上司を睨む。
オークが振り返り、シーカーに向かって何か言おうとしたその時。
劈くような悲鳴が街に響き渡った。二人の男の纏う空気が一瞬にして変わる。
「その話はまた今度だ」
行くぞ。
口に出さないオークの言葉にシーカーは微かに笑んで頷き、はためく彼の漆黒のコートを追った。

オークとシーカーの職業は祓魔師――教会に所属する戦闘部隊、いわゆるエクソシストと呼ばれるものだ。
魔、即ち《悪魔》を祓う専門家である。《悪魔》は確かに存在する。
人の心から発生し、蝕み、死に至らしめるもの。
人に取り憑き、操り、人を喰らうもの。
その生態系も行動も様々だが、共通していることは一つ。この世界に存在するはずの無いそれは確かに人間の敵であるということ、それだけだった。
だから《悪魔》を狩る《人間》が必要となり、時代はエクソシストなる人々を生み出した。一般的に人の身では悪魔に対抗する事は出来ない。
しかし、長く厳しい訓練の果て、悪魔に勝ち得る力を身に付けた人間。あるいは――生来なんらかの能力を生まれ持った人間にならば、それは可能であった。
オークは前者、シーカーは後者に分類される。

彼らが街に来ていたのは、わずかに悪魔の反応有との報告を受けたからである。
というのも最近《アクアホリック》なる上位悪魔の生息が確認され、犠牲者は日に日に増えている。
教会の威信をかけて、組織の中でも最上位の能力を持つ二人にも命令がくだっていた。

中世の面影を残す石造りの建物をいくつか横目に抜き去り、暗い裏路地へと入る。
賑やかだった中心街とは打って変わって、異様なほど閑かだった。
シーカーのブーツの足音のみが、雨上がりの石畳に響く。
「……毎回思うんだが、そのブーツなんとかならねぇのか。カツンカツンうるせぇったらありゃしねぇ。
いつかそれがお前の命取りになったらどうするつもりだ」
「いいんです。貴方に僕の出で立ちをとやかく言われるつもりはありません。
これは僕のお気に入りです、いわば相棒みたいなものですよ」
「お前の相棒は俺じゃねぇのかよ……」
「貴方は僕の上司です。僕はただの支援役の部下にすぎませんからね……っと、そんな冗談を言えるほど気を抜いて、貴方こそ大丈夫なんですか?」
人の悪い笑みを端正な顔に浮かべ、その薄灰色の瞳がオークを一瞥する。
「それを俺に聞くのか……ったく、お前にはもう《視えてる》んだろ、お前がいつも通り余裕こいてるっつーことは本命じゃない……大したことないってことだ、違うか」
オークの深緑色の瞳がシーカーの瞳を捉えた。長く時が止まったかのように感じられた刹那。
「……ご明察、とでも言っておきましょうか」
シーカーが肩をすくめ、右手で顔を覆う。
「本命ではありません。――弱くはないですが、貴方の敵でもないでしょう。蹴散らせますよ、一撃で」
シーカーの言葉と時同じくして、シーカーの前方に立っていたオークが後ろに飛んだ。その瞬間。
凄まじい衝撃音と爆風、砂埃が起こり、シーカーの一歩手前、オークの居た所には巨大な穴が開いていた。
「凄まじい一撃だな……とんだご挨拶だ」
舞いあがる粉塵を吸わないようコートの袖を顔に当て、オークは相棒をちらりと見た。
「ほう……一応上位個体と言えますね。ただ人にとり憑くのではなく、誘惑し、心の隙間につけこみ操る……なかなかです。その擬態を使って一体何人喰いました?」
ククッと笑い、シーカーは顔を覆っていた右手をゆっくりと下ろした。
粉塵の先の一点のみを見つめる。
薄灰色だったはずの彼の両目は緋色の輝きを宿していた。
今の彼の瞳にオークは映っていない。その紅い瞳に映るのはただ彼が追い求める物のみ。
砂埃が収まり、二人を襲撃した正体をオークも肉眼で確認することが出来た。
ゆらり、ゆらりと人有らざる動きで近寄ってくるのは――まだ若い女だった。
手にナイフを握りしめたうら若き乙女。しかしその両の眼はにごりきり、白眼の部分が無くなっている。
「ちっ……相変わらず奴さんは趣味が悪いことだな」
女の腹は膨れていた。女が握っているナイフではオークとシーカーを倒すことなど到底できない。
オークは舌打ちした。おそらくあのナイフは――
「お腹の子を人質に、とでも言うつもりですか?非情で冷酷ともっぱらの噂の僕達でも、まだ生まれてもいない赤子を盾に取られたら怖気づくと?」
シーカーは落ち着いた様子で一笑し、左手を軽く振った。いつの間にかその手に握られた拳銃を静かに持ち上げ、標準を定める。
「……笑わせないでください。失望させないで。 なんて真似をしてくれるんですか……」
「馬鹿!てめぇ!忘れてんのか!お前は……!」
「……悪魔風情が」
オークの怒鳴り声すら耳に入っていなかった。狙うは女の額、ためらうことなくシーカーは引き金を引いた。
撃ったのは、一発。銃声は、無かった。
無音の一拍。憤怒の表情を宿したオークが懐からゆっくりと二丁の拳銃を取り出す。
突如、女のものとは思えない程低く、野太い、声にならない声が辺り一面に響いた。同時にオークは容赦なくシーカーを蹴り飛ばし、石壁に叩きつけ気絶させる。
瞬間、オークは大きく一歩跳躍。女――いや、倒れた女の背後に佇む、シーカーの銃撃によって本来の姿をこの世に具現化された《悪魔》の元へと――その身を運んだ。
《悪魔》は人型であった。
手も足もまるで人間のそれとそっくりだった。
ただ唯一違うのは、その頭部――首から上、本来ならば人間の顔がある場所に、強烈な腐臭を放つ巨大なイチゴが乗っていた点だけ。
「イチゴねぇ……意外とメルヘンなものが出てきたもンだな」
両手の拳銃をくるくると回転させて弄び、オークは自身の体より一回り大きい悪魔をまじまじと見上げた。
頭部のイチゴからは泡沫が浮き出ており、それが強い腐臭を発生させている原因のようだった。
オークは小指で頭をボリボリと掻き、さてどうしたもんか、と呟いた。
「ふう。俺からも挨拶しておくべきか?俺はオーク、いわゆるエクソシストって奴だ。
ま、分かりやすく言えば、お前の敵だな。突然で悪いが……お前には死んでもらう、今すぐにだ」
両手の拳銃をイチゴ頭に突きつけ、オークは迷わず撃った。
オークの動作に反応してイチゴ頭がうなり声を上げる。
空気が振動し、地響きが起きる。左腕一閃、巨大化した腕がオークの首を取りに来たのを後ろに跳躍することで紙一重でかわす。
鋭く伸びた爪が空気を裂き、オークの髪数本をかすめていった。
「おう、結構やるじゃねーか」
一撃では倒せない。攻撃された次の瞬間にはカウンターを発動させるタフさ。
シーカーの言う通り、確かに「上位」の個体のようだった。久しぶりの感覚にオークの喉が鳴る。
素早く背後に周り、銃撃を連続で叩き込みながらオークは嗤った。
「よう、これくらいで殺られてくれるなよ?もう少し楽しませてくれるんだろ?」


「おーい、起きろ!この能無しー」
石壁に伸びている部下、シーカーの額を、しゃがんで拳銃でつつくオーク。と、シーカーの目がくわっと見開かれる。
「……!五月蠅いですね聞こえてますよ悪口も全部!誰かさんのせいで頭痛がひどいのでこうして休んでいるんです!
人を思い切り石壁に叩きつけておいてよくそんな乱暴な口がきけますね!」
「ははは、そんだけ喚けるなら平気だな。任務完了!本部に帰るぞ」
ひどく痛む後頭部をさすりながら、シーカーは上司を見た。
オークは言った。
「任務完了」だと。即ち彼はあの《悪魔》を倒したのだ。シーカーが居なくても。
いやむしろ、シーカーという足手まといが居ながらも、たった一人で。
わかっている、オークは非常に優秀なエクソシストだ。強力な悪魔との戦闘を数多く経験し、組織でも指折りの実力者だった。
今も、コートに血一つ付いていない。
彼が自分の上司であり、相棒であるということに誇りを感じつつもシーカーは素直に喜べずにいた。





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一番最初に書いた章で稚拙さが目立ちますが、どうかご勘弁を!

白と黒のエクソシストの歩む道は果たして。

初めまして八雲と申します!
普段は現代小説ごりごり書いてます!
ずっと書いてみたかったファンタジーに初挑戦です。

Hide And Seek.(かくれんぼ)
主人公はシーカー君です
一番人気はオークです断トツです
もう一度言います主人公はシーカー君です!

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