「あーーーーーーっ!!」

「むぐむぐむぐ……」

「俺のからあげ返せーーー!」

「もう食べたぁーーーー」


これはアレか。
ここでチューして「返してもらったぞ☆」とか言うのが正しい彼氏のあり方なのか。そうなのか。なんかくのいちに人気だとか言う草紙に書いてあった。

清香もそういうのをよく読んでいるようで、うっとりしたり畳をゴロゴロ転げまわってニヤニヤしているのを覗き見た事が何度かある。

俺も読んでその草紙の中の男の真似をしてみようかと、いつもいつも思うのにくそ恥ずかしくてできん。

それでもあんな風に嬉しそうに転げまわるなら、そんな清香が見れるなら、してやりたい気持ちも存分にあるのだ。

しかしここは食堂。仙蔵やら小平太もいて、さらには下級生、先生方、食堂のおばちゃんまで……
こんな大勢の人前で真っ昼間からキッスなどと破廉恥な事が、


「できるかーーーー!」

「何がーーー!?」


ハッと周りを見るとみんな俺を見ていて「見んな」と言いながら着席した。残った味噌汁で飯を流し込む。

最後の一個のからあげを横取りするなんて、どこまで酷い女なんだ。
情け容赦のない奴だとは思っていたがこれ程とは。


「二度とお前と一緒に飯は食わん!」

「えーーーひどーーーい」


さっさと片付けようと皿の乗った盆を持って立ち上がると、清香も立ち上がった。


「文次郎、ゴハン粒ついてる」


俺の前に回って肩んとこに掴まると背伸びをして、そして、ほっぺたにチューされた。

チューって言うか、清香が言うには飯粒がついてたんだろうけど、これは反則だろ。背伸びとかカワイすぎるだろ。チュッて絶対今、ほっぺに唇ついてた。

やばい。可愛い。幸せすぎる。

誰だ、忍者の三禁とか考えた奴。無理だろ。無理に決まってる。はぁーーードキドキするーーーー

もうこのまま死んでもいい。いや、ここで死んだらもったいないか。死んでも死にきれん!ああ、その表現もなんか違うぞ。

とにかく、俺に生まれて万歳……




「誰か現実に戻してやれ」


仙蔵がそう言ったのを合図に、小平太がカンチョーかましてきた。


「いっ……てぇええ!」


ひっくり返った盆や茶碗は伊作の頭へ。


「ああ〜もう……油がぁぁ……」

「伊作のカタキは俺が!」


食満まで暴れ出して、もう収拾つかない忍術学園の食堂。


潮江文次郎15歳、ギンギンに恋盛りなのであった。









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