「キスも、セックスも清香からしたいって言った事ないね」
「だって、そんな事……女から言うもんじゃないでしょ?」
「したいって思った事ある?」
そう聞いたら怒ったような顔をした。やっぱりなかったんだ。清香は私の相手をしながら「嫌だ嫌だ」と耐えていたんだろうか。
会いたいと急に切なくなったり、恋しくて飯の味がわからなかったり、嬉しかった会話を何度も頭の中で再生させたり、逆にああ言えばよかったって自分の中だけで会話をやり直してみたり
毎日清香の事を考えて嬉しくなっていたのは自分だのかと思うと恥ずかしくなった。
「どうしたら好きになってくれるんだよ……」
不覚にも涙が溢れる。清香には見えていないことが幸いだと思った。
今までこんな風に考えた事なんてなかったのに。自然に、一緒にいれば惹かれ合うのが男と女だと思ってた。
「ごめんなさい……あたし、わからなくて……」
清香も泣きながら答える。
「あたしなんかのどこがいいの……?あたし知ってるよ。義丸はすごくモテるって、色んな港にいい人がいるんだって……だから、本気になっちゃいけないよって、言われたもん……最後に、いなくなるんなら、最初からいない方がいい……」
「清香……」
まるで、見えなくなる目なら最初から何も見えない方がよかったって思ってるみたいな言い方だった。
「あたしみたいな目の見えない醜女、義丸と釣り合うはずないじゃない……」
「清香は醜女なんかじゃない」
「嘘だ……」
焦点の定まらない虚ろな目が好きだって言ったら怒るかな。その、空っぽみたいな瞳を満たしてやりたくなったんだって言ったらどう思うんだろう。
「清香が好きだよ。本当だから、ちゃんと感じて」
できるだけ優しく、触れるだけのキスをした。清香にとっては無意味なはずなのに自然に目を閉じて、指先で私の髪に触れる。
「義丸……、したい」
「もっと言って」
「義丸に抱かれたいよ……」
「それが聞きたかった」
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