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ぺたり、ぺたり。
約束通り、障子の穴を修繕用の障子紙でふさいでいく。落ちているらっきょうは食堂にでも持って行くかな。
大木との喧嘩からまさかこんな事になろうとは……それを思い出すと自然と笑みが零れた。
「これが終わったらうどんでも食べに行こうか」
「いっしょに?」
「そうだけど」
「二人で?」
「何か不都合でもあるか」
「いいえ。お腹すいちゃいました」
何事もなかったかのように明るくお腹の辺りを擦る仕草をして見せた。こっちは余韻で顔がニヤけると言うのに。
思わず繕った顔に清香が笑う。
「野村先生でもそんな顔するんですね」
「何がだ」
「どんな顔してればいいかわからないって顔」
顔をそむけて障子に向き直ると清香は私の後ろに来て結った髪を解いた。
「少し乱れてる。結い直しますね」
「すまんな」
櫛を通して髪を整えていく。人に髪を弄られる心地よさに欠伸が出そうになった。
「綺麗な髪」
「そうか?」
「こうしてるとドキドキします」
「さっきの方がよっぽど……」
緊張やら愛しさで私は胸が高鳴ったのだけれど。
女という生き物はなんとも不可解だと思う。
障子貼りの終わった合図にと清香の手を握って引き寄せながら、振り向きざまに口付けた。
唇と唇が触れるだけの軽いキス。
それなのに清香の顔はみるみるうちに真っ赤に変化した。
「どうした?」
「不意打ちにキスなんて、鼻血でそ……」
わからん。眉間にシワを寄せた顔のまま、少女のように照れている清香を眺めていると益々シワが深くなった気がする。
「行こうか、うどん屋」
「イキましょ」
「なんか、今、発音変じゃなかったか?」
「気のせいですよ」
end
→あとがき
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