にっこり笑って久瀬先生は台所へと入っていった。
私は応接間のソファーに腰を下ろし、酔いで火照った顔を手で仰ぎながら待つ。
キョロキョロと部屋を見渡すと、天狗のお面や狐の面、かわいらしいこけしなんかが飾ってある。ご両親の遺したものだろうか。
飾り棚の上には電話が置いてあり、ファックスらしき紙がそこからはらりと落ちた。
取り合えず拾っておこうと、それを手にすると読もうと思った訳ではないがあまりに大きな文字で「新任教師」と書いてあるのが目に飛び込んできた。
もしかして私のこと?と思い、目を通すと「甘藍先生へ 濡れた新任教師、陵辱の教壇の原稿、くれぐれもお願いしますね!二週間後ですよ!」なんて勢いのある手書きの文字。
「ぬ、濡れた……って?え?カンラン先生?」
もしかして……
何となくわかってしまった。
この卑猥なタイトル、原稿、ペンネームらしき名前。
官能小説を書いてるの?あの久瀬先生が?
「杏珠先生?」
「は、はいっ!ごめんなさい!」
慌てて隠したけれど遅すぎた……久瀬先生の長い指がそのファックスを取り上げる。
「あ……もしかしてバレてしまいましたか」
「あの、わかっちゃいました……でも!言いませんから!誰にも言いません。約束します。勝手に見てしまってすみません!」
「いや、放っておいた僕のミスです。でも、恥ずかしいな……」
あの落ち着いた久瀬先生が顔を真っ赤にして片手で口元を覆うように隠した。
恥ずかしがっている姿が何だか、かわいい。
しかしまたとんでもないのを見てしまったな。私まで顔が真っ赤になってしまった。
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