「僕も帰るのでよかったら送りますよ?」

「でも……」

「あぁ、アルコールなら飲んでません。苦手なんです」


それなら甘えてしまおうか。この時間だともう電車はないしタクシー呼ぶくらいなら乗せてもらおうかな。


「本当にご迷惑じゃ……」

「とんでもない。エスコートできて光栄ですよ。男って単純だから」


立ち上がると冗談めかして英国紳士のように腕を出してくれた。少し照れながらもそこにつかまって部屋を出る。みんな酔っているし、何となく二人で出て行く所を見られたくなくて声はかけなかった。


まるでコンパで意気投合して抜け出したみたい。……まぁ今までそんな経験はしたことがないのだけれど。

真っ白のフォルクスワーゲン。外車だって初めてだ。
ウチの場所を伝えると、偶然にも久瀬先生の家と目と鼻の先だった。


「よかったら少し寄っていきます?酔い覚ましのコーヒーでもどうですか?」


恭介先生なら警戒するところだけれど、久瀬先生なら大丈夫だろうとその言葉に甘えた。久瀬先生の家は200坪はある大きな和風のお屋敷で大きな表札がかかっている。


「立派なお家……」

案内されながら思わず出た言葉。ほとんど独り言みたいに聞こえただろう。


「古いだけの家ですよ。両親が他界した後、この家を姉に押し付けられまして」


恭介先生だけじゃなくてお姉さんにまで……とちょっと笑ってしまった。でもご両親をもう亡くされたなんてきっと寂しいだろうな。


「じゃあ、この家に久瀬先生ひとりで?」

「はい。週に一度、お手伝いさんが来てくれてますが」

「寂しくないんですか?」


立ち入った話だと思ったがつい言ってしまった。


「慣れました。それに生徒や恭介が来る事もありますし、近くには杏珠先生がいるってわかったしね」






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