一晩を共に過ごして彼の部屋で目覚めた朝。
あの日の事を反芻するように思い出してはニヤニヤと頬が緩む毎日だ。
エリートでスマートで、インテリジェンスなイメージからは想像できないくらい逞しい体。
あの厚い胸板に抱かれて「好きだよ」と囁かれてうっとりと夢見心地だった。
……のに。
「なんで……」
「聞くのは野暮だ」
くっきりと内腿に赤い跡が数ヶ所。こんな場所にキスマークだなんて生々しい……
嫌でも愛撫されて息を乱す照星さんの姿が頭をよぎるじゃない。
しかも、謝りもしないで開き直るなんて……
こういうのが大人の関係なの?これが照星さんの付き合い方?
あたしの事を好きだって言ったのはやっぱり嘘だったんですか……?
「見たくなかったです……せめて隠そうとして下さいよ!」
「これくらいで嫌われるとは思ってなかったからね」
これくらい?浮気が?
その感覚にあたしはめまいさえ覚えた。
「そ、そんな人だったなんて……」
「君の理想を押し付けられても困る」
愛し合ってた途中だったのに……いや、愛し合ってたと思っていたのはあたしだけで、照星さんにとっては単なる遊びだったのだけれど。
兎に角、セックスの途中でパンツを履かれたのは初めてだ。
スラックスも履いてシャツを羽織るとソファに腰掛けて、頬杖と溜め息を同時についた。
あたしだけ裸というのも間抜けでキャミワンピだけ身に付ける。泣き出しそうなあたしに照星さんは苛ついてすまないとでも言うように、さっきとは違った優しい声色で言った。
「……仕事だったんだ。仕方ないだろう」
情報はベッドの上でって事ですか。そりゃあ照星さんくらいになるとどんな手段を使ったって得なきゃいけない情報もあるんだろう。
だからって……
開き直らないでよ。
どんな気持ちで抱いたの?仕事ったってちゃんと気持ちよかったくせに。
あたしに申し訳ないとか、そんな気持ちにならなかった?
沸々と込み上げてくる感情とは逆に唇からはどんな言葉も出てこない。
「もっとキレイな男だとでも思ってたか?」
「……思ってました。仕事もできて、紳士で、お洒落で、欠点なんて見当たらない……憧れでした」
「生憎だったな」
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