ほんの数分後、今度は先生からの着信を知らせてバイブした。
「はい」
『今いいですか?』
「大丈夫です……」
見られる訳でもないのに思わずベッドに座り直して前髪を整えた。ドキドキして何だか背中がむずむずする。
電話だけでこんなにときめく事は随分と久しぶりのような気がする。
『会えないのに声だけなんて余計に寂しくなりそうで電話は我慢してたんですけどね。結局しちゃった』
そう笑う先生の声がいつもより浮かれているように聞こえる。あたしとの電話が心底嬉しいとでも言うような声色だ。
電話ひとつではしゃぐだなんて少年のようだと思った。そして同じように自分も落ち着かないでいる。
『でも、してよかった。やっぱり声だけでも嬉しいものですね』
「そうですね。なんだか先生が近くにいるみたい」
『本当に。目を閉じれば見えそうなくらい』
思わず目を閉じてみた。先生のあの笑顔。
どこか妖しい艶のある微笑みを思い出して胸がキュンとなる。
「会いたいな……」
独り言のように呟いたのは素直な気持ちだった。
『僕も……っくしゅ』
「大丈夫ですか?」
『ごめん。少し冷房を強くしすぎたみたいです』
「ダメですよ。ほら、ベッドに入って、ちゃんとお布団も被って下さい」
『うん。小夜も一緒に寝てくれる?』
甘えたような言い方にニヤけてしまいながら自分もベッドに身を沈めた。
冷えた布団が肌に気持ちいい。
「あたしもベッドに入りましたよ。眠くなったらそのまま寝て下さいね」
付き合っていた頃、何度か電話の途中で寝られた事を思い出してそう言った。
『ありがとう。小夜の事、抱き締めていい?』
「はい。ふふ、なんか変なの」
思いがけないごっこ遊びにあたしはなんだかくすぐったくなって身を反転させる。
体温の移ってきた布団にくるまっていると先生の温もりを思い出して本当に抱かれてるみたいだと思った。
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