「雑渡さ……」
ふらつきながらも手を伸ばす小夜。
そこに燃えさかる柱が倒れてきそうに揺れているのが見えた。
小夜が危ない。
そう認識すると自然に体が動いていて……
小夜に覆い被さるように庇っていた。
「雑渡さん……嫌!これじゃ雑渡さんが……」
抱き上げて逃げる力は出なかった。小夜は私の手に爪を立てて解こうとしたが柱はすぐ落ちてきて……
「あああああぁぁ!!」
「いやぁあああっ!!」
炎の柱の下敷きになって全身に火傷を負った。
そして小夜が握り締めていた私の手は無傷だった。
小夜は手を火傷して……
お互い、自分の仲間に助けられてなんとか命を落とさずに済んだのが奇跡だ。
焼けた皮膚よりも吸い込んだススで痛めた肺や喉が苦しくて地獄だった。あの感覚を思い出すと今でも身震いする。
そして何より、小夜が幻だった事……
それが一番辛かった。
しばらくして、火傷が治った後もそのケロイドを隠す為に包帯を巻き続けた。
小夜は何度も手紙をくれたが読まずに捨てている。もう、忘れたかったんだ。
「女が会いたいと銭を寄越してきた。命令だ。会ってこい」
城主の命令で小夜の家へ行かなくてはならなくなった。あいつも考えたものだ。
「話なら手短に頼む」
「手紙……」
「読んでない」
「もう、気持ちは少しも残ってないのね」
「そっちは最初からなかったくせによく言うよ」
「違う!好きなの……今でも」
「私は嫌いだ。正直に言うと憎んでいるし顔も見たくない」
「雑渡さん……じゃあどうして庇ったりしたの?あたしの為にそんなになって……」
「たまたまふらついた先にお前がいただけだ」
「嘘つき」
「それはお前だろう。もう気が済んだか?帰る」
「待って……お願い!何でもします。好きなの……雑渡さん……許して下さい……」
泣きながら土下座して畳に額を擦り付ける姿に胸が痛むのが自分でも情けないと思う。
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