あの日、私が最前線にいたのはクジ引きでハズレを引いたからだった。
摘まんだ糸の先が赤かった、それだけで人生がガラリと変わってしまった。
もう落城は時間の問題で、敵に引導を渡すだけの簡単な戦だった。
それが窮鼠、猫を噛むの如き、捨て身の攻撃にこの体を焼かれる事になる。
城に攻め込み、城主を探して部屋を駆け抜けた。さっさと終わらせて久しぶりに酒が飲みたいなぁ……なんて呑気に構えて。
しかし、とある一室の襖を開けてそんなお気楽な考えは真っ白に飛んでいってしまった。
「小夜……なぜ、ここに……」
「雑渡さん……ごめんなさい」
恋人のはずの小夜がそこにいた。
紺の忍び装束。いつもはゆるく束ねているだけの髪を高くで結わえて。
「九ノ一か……」
「許して下さい!でも、雑渡さんを好きだと言ったのは本当なの。最初は忍務だったけど……」
「嘘だろう……小夜?」
「ごめんなさい……」
頭の中では一瞬で理解していた。
小夜は忍務で私に近づき、こちらの情報を得ていたのだ。
今までの甘い生活は全部、小夜の色の術で……私は騙されていたんだと。
わかっているのに、上手く受け止められなかった。
「嘘だ……」
「雑渡さん……あたしの気持ちに嘘はありません!それだけは信じて」
立ち尽くす私達の周りに火の手が上がった事に気が付いたのは小夜が叫んでからだった。
「とにかく逃げなきゃ!こっちに抜け道があるの。早く!」
私の手を引いて、隠し扉を開ける。今、騙されていた事を知ったばかりなのに小夜に従う気にはどうしてもなれなかった。
「これも罠なんだろう!お前一人で行け!」
「違う!お願い、信じて!あたし、雑渡さんを置いて逃げるなんて出来ない!」
「私は行かない!」
「一瞬に行こうよ……ここに居たら死んじゃう……」
火の回りは早かった。あっという間にどんどん焼け落ちていく。
熱くて、熱くて……
煙に頭がグラグラする。
息をするだけで肺が焼けそうなほど、苦しかった。
もう、終わりだとも思った。
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