部屋には椅子がふたつあったけれど、一つは本が山積みだった。
それをどけて埃を払うとどうぞと勧める。
付き合っていた頃はもう少し綺麗だった。今頃になって、あたしの為に掃除したり片付けたりしてくれていたんだと知った。
気付けなかった馬鹿な自分と懐かしい匂いに胸がキュッとなる。
あたしは座らずに本来の目的であったマフラーを渡すべく、紙袋を差し出した。
「これ、よかったら、使ってください……」
なんか、やっぱりこいうのって緊張する。照れ臭いし恥ずかしい。
「何?」
袋を開けて中身を確認する先生。取り出すと、そのままキスするみたいにマフラーを鼻先へと持っていった。
「小夜の匂いがする……もしかして手編みですか?」
「えっと……はい」
そんな目の揃ってない既製品なんてありえないってひと目でわかるだろうに。なんだか今になって手編みなんてダサかったよね、と後悔してきた。
やっぱりカシミアの上品なマフラーにすればよかった。
「似合いますか?」
首に巻きつけてニコニコと目を細める先生。喜んでくれてるみたいでちょっとホッとした。
「はい。やっぱりその色、似合うと思ったんです」
「ありがとう。嬉しいです」
あたしも嬉しくなって二人で笑い合う。キュッと抱きしめられて軽くキスされた。
「でも、どうして急に?」
「今日、先生の誕生日じゃないですか」
「あ……すっかり忘れてました」
少し照れ臭そうに頭を掻くと、覚えていてくれて感激だとまたキスをした。
今度はさっきみたいなちょっとしたのじゃなくて、絡みつくような濃厚なのを。
放課後のまだ生徒たちの声が聞こえてくる。部活の掛け声、ホイッスルの音、女の子たちのはしゃぎ声。
それと一緒に頭に響く、先生があたしの舌を吸う音。
ギュッと抱きしめられて自分と先生の体格の差を感じる。手を回した背中が見た目よりずっと広くて、ドキドキした。
唇が離れても、あたしは先生の腕の中で温もりを感じていた。
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