「買ってきた。待たせたな」
ハァ?と思った。せっかく咎めず逃がしてあげたのに戻ってくるなんて。
「あなた馬鹿なの?」
「モチ入りと栗入りとあんこだけのがあった。どれがいいかわからなかったから二つずつ買ってきたんだが」
目の前に最中を並べる雑渡さん。何だか憎めない人だ。
馬鹿というより責任感の強い人かもしれない。本当に悪かったと思っているのかも。
「それなら、お茶淹れようか……いっこずつ食べよう?」
「じゃ、私が淹れよう」
ガチャガチャと音をたてて台所で湯を沸かす。男の人が台所に立っているのがなんだか変だ。
「濃……」
「久しぶりに淹れたから……いつもは部下にやらせてるんだ……」
「でもお菓子には合うね」
「そうか……よかった」
昨日、無理矢理姦淫した人とお茶飲んで最中食べてる。
あたしの乳房を掴んだ指がお菓子の包みを開けていた。お湯も浴びていないから、この男のアレはあたしの中に入った時のままな訳で……
何だか急に恥ずかしくなった。
「お風呂、入りたい……」
「そうだな。沸かしてこよう」
気付かなくてスマンと言うように慌てて立ち上がるから、その手を掴んだ。
「食べてからでいい……」
「そう。なら後にする」
座って頭巾の隙間から器用に食べている。あの頭巾の下には包帯まで見えているのに。それになんでまた包帯なんか巻いているんだろう。
透明人間だったりして。
静かにお茶をして、お風呂を沸かしてくれた。ご飯も、水汲みも全部、雑渡さんがやってくれた。
おかげであたしは一日中ゴロゴロとぐうたらできて、野良猫と戯れてみたりして過ごした。こんな日は子供の頃以来だ。
「他にする事は?」
「何もないよ。もういいってさっきから言ってるのに」
「私の気が済まない。君をひどく傷付けてしまった」
「蚊に刺されたほどにも思ってないわ。生娘だなんて嘘だもん」
ひらひらと手を振って虫でも払うような仕草で帰ってと合図をした。本当にもうどうだっていいって思ったから。
「泣いていたくせに……」
「あれは……」
あなたが可哀想に見えたから、なんて言えなかった。
「じゃあ……最後にもう一つお願いしようかな」
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