悩み多きお年頃? | ナノ
#悩み多きお年頃?


太陽は真南に昇り、暖かな陽気が包む。
空には雲ひとつない青空が広がっている。
この気持ちの良い天気に誘われてなのか、今日の昼休みの屋上はいつもより人が多い。
人が多かれ少なかれ、自分には関係ない。
皆守甲太郎は、いつもの場所で昼寝をしようと体を横にしたのだが…

「あぁ、どうやったらうまく話しかけられるんだ!?」

「せっ…拙者はただ見ているだけで…その…」

「………」

約二名、その横に座り談義をしている。

「なぁ、どう思う?こ〜ちゃん!」

「皆守、お主の意見を聞きたい」

皆守はチッと舌打ちをし、がばっと体を起こすと、自分の頭をわしゃわしゃと掻いて言った。

「そんな話題、俺に振るなッ!!」

皆守の横で談義をしている二名…風晴蒼太と真里野剣介は、3年A組の七瀬月魅に惚れている。
一方は奥手なトレハンバカ、もう一方は奥手な武士道バカである。
恋愛ごとにはとても疎い。
二人が行っていた談義というのは、

『どのように好きな相手にアプローチすればいいものか』

というものであった。
互いに恋敵だというのに、好きな相手のことで相談しあっているとは、変わった連中である。

「んなこと言わないでさ、親友〜頼むよ〜!!」

蒼太は情けない顔をして、すがる思いで皆守の腕を掴んだ。

「是非とも、第三者からの客観的な意見を聞いてみたいのだ」

真里野も『頼むっ!』と、皆守の腕を掴んだ。

皆守にしても、そのような恋の悩み(?)など打ち明けられても、特に良いアドバイスが思い浮かぶわけもない。

「ったく…、だから女は厄介だって言っただろ」

二人の手を振りほどくと、愛用のアロマパイプを取り出し、口にくわえて火をつけた。
何と言えばいいのだろうかと返答に詰まっていると、屋上で談笑している二人組の男子生徒の声が聞こえてきた。

『ホントこの學園生活ってダルいよな〜』

『長期休暇にならないと、校外に出れね〜し』

『ガールハントも出来ねえよ。何なんだ?俺の青春返せよって感じだよな!』

ガールハントはともかく、學園生活がダルいのは同感だなと三人とも思いながら、さらに話を聞いていると…

『ここはひとまず、退屈しのぎに賭けしないか?』

『どんな賭けだよ?』

『相手が指定した女子を口説いた奴の勝ち!勝者には天香定食を奢るってのはどうよ?』

『ほぅ〜、面白そうじゃん。退屈しのぎにちょうどいい。んじゃあ、お前が口説くのは…3-Cの八千穂明日香な』

『あのおだんごか。楽勝だぜ!じゃあお前は…3-Aの七瀬月魅でどうだ!?』

『ふっ、こっちこそ楽勝だ!あの文学少女なら、俺のロマンチックな台詞でイチコロよ!ちゃんと天香定食おごれよな!!』

『望むところだっ!!』

『んじゃあ開始は放課後から19時で終了。
うまく口説いたら、そのまま彼女をマミーズに連れてくること』

『了解!腕が鳴るぜ〜♪』

賭けを成立させると、その男子生徒たちは、ウキウキしながら屋上を去っていった。

一方、想い人がくだらない賭けの対象にされたと知って、蒼太と真里野は激しい怒りに燃えていた!!!

自分達は、ろくに想いを伝えられないで悶々としているというのに、あの男はふざけて口説き落とそうとしているのだ。
不埒な輩め…、断じて許せんっ!!男の風上にもおけん奴めっ!!!
怒り心頭の二人は、多くの言葉を交わすまでもなく、意見が一致したようだ。

「「七瀬(さん・殿)は(俺たち・拙者たち)が守るッ!!!」」

先程までのちっぽけな悩みは、どこぞに吹っ飛んでいった。
二人は勢いよく立ち上がり、固く握った拳を交わす。

「マリケン!」

「蒼太よ!」

「これから図書館で張り込みだッ!!!」

「承知ッ!!!」

大声を張りあげて、二人はすさまじいスピードで屋上を去っていった…。

「これから張り込みって…午後の授業サボるのかよ…」

一人残された皆守は再びアロマを口に含み、一服しながら呟いた。

「まぁ、俺もサボるけどな…」

今度こそ昼寝をしようと、ごろりと横になり、ラベンダーの香りに包まれながらそっと瞼を閉じた。

***

放課後…七瀬月魅は、人気のない図書室に一人いた。
昼休みに回収した本を、棚に戻すものと修繕が必要なものに分類していた。

「あぁ、この子はかなり痛んでいるわ。治してあげないと…」

一冊一冊、大切な我が子を扱うかのように優しく手にとりページをめくる。
分類作業を終えて、棚に戻す本を数冊抱えて席を立つと、何時図書室に入室したのか、一人の男子生徒が七瀬に近付いてきた。

「七瀬さん」

「はい、何か本をお探しですか?」

「残念ながら、探しているのは本じゃないんだ…」

男子生徒の言葉に、七瀬は首をかしげた。

「はぁ…では、何を?」

七瀬との距離を少しずつ詰めながら男は言った。

「俺が探しているのは、君の…心なんだ」

「はぁ?!」

いきなり何を言い出すのか。七瀬はすっとんきょうな声を出し、驚いた拍子でずれた眼鏡を直しながら、この奇妙な男との距離をとるため、ソロソロと後ろへ下がった。

「君の心は誰を想っているんだろう…?」

そう言いながら男は、再び七瀬との距離をじりじりと詰めていく。

「貴方は何を言っているのですか?」

(なんだか怖い…)

七瀬は本をぎゅっと抱きしめて、恐怖で身を縮めながら後ろへ下がる。

「俺はこんなに君のことが好きなのに…」

自分の台詞に酔いながら、男はさらに七瀬との距離を詰める。
七瀬は男と距離をとろうと後ろへ下がるが…壁に追い込まれてしまった。

「ッ…!!」

「君の心が知りたい…」

男が七瀬の頬に触れようと手を伸ばしたその時…!
男の右側面の机の下から人影が飛び出した。

「敵影確認っ!!月魅、至急俺の後ろに待避だっ!!!」

「そ、蒼太くん!?…は、はいっ!」

何事なのか驚きながらも、突然の蒼太の指示に従い、大切な本を抱えて待避する。
蒼太は力一杯男の顔目掛けて雑巾を投げつけた。

ベチャッ…

雑巾は湿った音をたてながら、狙い通り男の顔面に的中した。慌てて雑巾をとった男の顔は青ざめていて、具合悪そうに口元を手でおおった。

「ぉおぅえっ…」

男は、投げつけられた雑巾の異臭により吐き気をもよおしているが、この場で戻すわけにもいかない。
必死に吐き気と闘っていると、今度は男の左側面の机の下から真里野が飛び出した。
愛用の木刀を隙なく構えている。

「七瀬殿、今のうちに司書室に!」

「こいつは俺たちに任せて、早く!!」

「は、はい!お二人とも、どうかご無事で…」

何が何だかわからないまま、二人に言われるままに、七瀬は司書室に駆け込んだ。

「まっ…なな…せさ……」

男は、司書室に駆け込んだ七瀬を呼び止め追おうとするが、目の前には恐ろしい形相で睨んでいる男が二人立ちはだかっている…。

その二人への恐怖で、男はさらに顔を蒼くした。
唇をガタガタと震わしていると、蒼太に胸ぐらを鷲掴みにされ、鋭い目線で睨まれた。
蒼太はにらんだまま、男に言った。

「……貴様が七瀬さんを口説き落とす前に…俺がお前の歯を砕き潰す!…その歯が浮いたような台詞が言えないようになっ!!」

「ぅぐっ……ぁ…」

ギリギリと強く胸ぐらを掴まれ、男は苦しそうに、声を発した。
さらに真里野は男の喉元に木刀をぴたりと突きつけ、静かに落ち着いた様子で淡々と言った。

「蒼太が歯を砕き潰すなら、拙者は喉を突かせてもらおう…。下らぬ賭け事などできぬようにな…。」

「※〆□∋∃¥¢&〒∂$★〜!!」

二人にとんでもないことを言われて、男は恐怖のため、もはや声にならない声をあげた。
蒼太は、もう二度とこんなふざけたことはするなと言い、つかんでいた胸ぐらを放すと、男は足をガクガクさせながら、

『ごめんなさ〜い、もうしませ〜ん』

と泣き叫んで、図書館から大急ぎで逃げ出した。

「これだけ脅せば、もうしないだろ」

蒼太は、やれやれと大きく伸びをした。

「そうだな…しかし蒼太よ、なかなかの気迫だったぞ」

どんな気迫なのか良くわからないが、真里野は満足げにフッと笑みを浮かべて言った。

「いや〜、マリケンの気迫もたいしたもんだったぜ!また手合わせしようぜ!!」

二人でお互いの健闘(?)をほめ讃えていると、司書室から七瀬が顔を覗かせた。

「あ、あの、大丈夫でしたか?」

申し訳なさそうに二人のそばにやって来て、声をかける。

「「なっ、七瀬(さん・殿)!!」」

愛しい人の出現に、二人とも一気に顔から耳まで赤らめて硬直した。

「ありがとうございます。おかげで助かりました」

微笑む七瀬に、二人は照れながら、『大したことはしていない、当然のことをしたまでだ』と告げた。

本当は、あの男が七瀬に近づく前に追っ払うつもりで図書室に張り込んでいたものの、蒼太は連日の遺跡探索の疲れから、うっかり夢の世界に旅立ち、真里野は返却間近の本を読みながら、眠りこけていた。
もっとしっかりしていれば、七瀬に嫌な思いをさせずに済んだのに…と思うとやるせない。
彼女に『あの男はなんだったのか?』と聞かれたが、あえて《賭け》をしていたということは言わずに、墓地の悪霊にでも取り憑かれたんだろうということにしておいた。

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