悩み多きお年頃(後編) | ナノ
#悩み多きお年頃?(後編)
「…さてと、それじゃあ片付けるか」
蒼太は、七瀬が分類しておいた本を数冊手に取ると、これは棚に返す本かと聞いた。
「拙者も…」
と、真里野も続いて本を手に取る。
「はい、それは棚に戻す本ですけど…あの、お気持ちは嬉しいです。
でもこれは私の仕事ですから、手伝ってもらうのは申し訳ないです。お二人ともお忙しいのに…」
七瀬は申し出を断ったが、蒼太は『そんなことはないよ』と告げた。
赤く染まった顔を見られるのは恥ずかしいので、七瀬に背を向けて、本を棚に戻す。
「七瀬さんだって、忙しいのに遺跡探索を手伝ってくれているじゃないか。
それと同じだよ。
それに七瀬さんは、俺にとって大切な…仲間だからさ…」
大切な仲間…、実際は仲間以上の感情を抱いているのだが、想いを口にすることはできなかった。
猪突猛進、勇猛果敢に遺跡の《謎》に挑む《宝探し屋》であるが、どうにも恋愛には臆病になってしまう。
蒼太は心の中で、臆病風に吹かれた自分自身に馬鹿野郎と毒づいた。
「そうだな…それに皆でやった方が早く片付くだろう」
真里野も本を棚に戻しはじめた。
「ありがとうございます。それじゃあお二人とも、本を戻すのお願いしますね!」
七瀬は修繕する本を数冊抱えると、司書室に運んだ。
図書室には作業音だけが響く。
不思議とそれが蒼太には心地よい時間に感じた。
《宝探し屋》と《仲間》として同じ時間を共有しているのではなく、《同級生》として、《普通の高校生》として同じ時間を共有していることが嬉しい。
「さて、これで終わりかな」
最後の一冊を棚に戻す。
「ありがとうございます。おかげで早く片付きました!」
修繕作業を終えた七瀬が司書室から出てきてお礼を言うと、二人とも真っ赤になって、緊張した面持ちで
「「どういたしまして」」
とかえした。
「…それじゃあ寮に帰るか」
「そうだな」
蒼太はこの《高校生》としての時間を名残惜しく思いながら、勉強道具はろくに入っていない空のリュックを背負った。
校舎を出れば、また《宝探し屋》としての時間が始まる。
夕日に染まった図書室を後にして、三人一緒に玄関まで出ると、蒼太を呼ぶ声がした。
「そーちゃん!」
「蒼太クン!」
そこにはアロマをふかしながらだるそうに下駄箱に寄っ掛かっている親友と、元気なお団子頭の姿があった。
「あー腹減った。皆でマミーズで飯にするぞ」
「それはいいな!!」
大勢で飯を食おうなんて珍しい皆守の提案に、蒼太は喜んで応えた。
「それじゃあ、マミーズまで競争しよっ!ご飯は最後に着いた人のおごり〜♪」
そう言うと、八千穂はさっさと走り出した。
「八千穂さん、そんなの酷いです!」
たしかに、体育が苦手な七瀬には不利な条件だ。
みかねた蒼太は、
「やっちーを追い抜いてやろう!」
そう言って七瀬の手を掴むと走り出した。
「えっ、はっ、はいっ!!」
蒼太に引っ張られるような形で、七瀬も一生懸命ついていこうと走りだす。
「ぬっ、そ、蒼太!待て!!七瀬殿っ!!」
真里野は、七瀬の手を引き走る蒼太を追いかけた。
「ちッ、八千穂なんか助けるんじゃなかったぜ…」
皆守は面倒くさそうに頭を掻き、渋々走り出した。
自分だけの心に封じている秘密、責任、悩み、葛藤…。
不思議と、騒がしい彼等と居ると、自分の抱えている心の闇を解き放ってくれるのではないだろうかと思ってしまう。
しかし、自分は救われていいものかどうか…
ここ最近、そのような悩みがぐるぐると渦巻いているが、今は関係ない。
ただひたすらに走っていると、そのようなものは何処かへすっ飛んでいく。
目指すはマミーズのカレーのみ!!
「こ〜ちゃん!早く来いよーっ!!飯はこ〜ちゃんのオゴリで決定なーっ!!!」
蒼太はマミーズの入り口から、手を大きく振って呼んでいる。
「オゴリなんて…夷澤にでも払わせておくか…?」
その頃、マミーズで日課のミルクを飲んでいる夷澤は、まさか先輩達の分をおごるハメになるとは思ってもいなかった。
あとがき
ようやくなんとか続き終わりました(^-^;
なんかめちゃめちゃです。
とくにオチはありません。
書いていて気持ち悪かったのは、七瀬に言い寄る男子生徒ッスね。
あんなやついないと思いますが、単なる変態ッスね。
2009年1月2日 風の字