卒業(上) | ナノ
卒業(上)if〜アルマリが中学生な話
あっという間に過ぎ去っていった三年間、もう在校生としてくぐることのない正門をくぐり出ると、少年は、古びた学舎を感慨深げに仰ぎみた。
学友達と共に学び、笑い、喜び、時には悩み、涙することもあった学生の日々を思いだし、鼻の奥がつーんとして、じわりと目に涙がうかんだ。
グスグスと鼻をすすり、手の甲で涙をぬぐっていると、誰かがポカリと少年の頭をたたいた。
「!?」
少年は不意打ちに驚き、辺りをキョロキョロと見回すと、そこには、同じ卒業証書を手にした、少女の姿があった。
「なーに相変わらずポケーッとしてんのよ、アルス!…やだっ、あんたってば、泣いてんの?」
「マ、マリベル!?」
幼馴染みの少女マリベルに、泣き顔をのぞきこまれてばつが悪いアルスは、マリベルに背を向けて慌てて涙をぬぐうと、再び彼女に向き合った。
人の顔を見て『泣いてんの?』なんて言っているマリベルも、よくよく見れば目元が赤い。
マリベルだって泣いていたのだろう。
そうだ、卒業して感極まって、涙を流すことに恥じることなどなにもないと思い直したアルスは、素直に泣いていたと告げた。
「そうなの」と、マリベルは泣いていたことに関して、特にそれ以上触れることもなく、アルスに一緒に帰ろうと促した。
***
「ついこの間、入学したばかりだと思っていたのに…三年間って、あっという間だったわね」
「うん」
真新しい制服に身を包み、期待と不安でいっぱいだった新しい学校生活。
男の子は背が伸びるだろうからと、大きめの学生服を着ていたアルスが、
『ぶっかぶかじゃないの、へんなの』
と、マリベルに笑われたのも記憶に新しい。
真新しかった大きめの学生服は、今ではすっかりくたびれているが、大きさはちょうどよい。
ちなみに、アルスが、学生服を身に纏ったマリベルをはじめて見たとき、少しだけ大人びて見えた彼女に、ドキンと胸の高鳴りを覚えたのは秘密だ。
お互いに、三年間の思い出を語り合いながら、ゆっくりと歩く。
「マリベルは、ギュイオンヌ女学院高校だっけ?」
「ええ…。アルスはフィッシュベルの水産高校に行くんでしょ?」
「うん。父さんみたいな立派な漁師になるためにも、いっぱい勉強するんだ!」
普段はポケーっとしているのに、夢の事となると、強い意思を宿した瞳をキラキラと輝かせて話すアルス。
日頃から父の仕事を手伝って、海洋学や漁師の仕事について真剣に学んでいる。
そんな彼を間近で見ているから、素直に応援したくなる。
「アルスの小さい頃からの夢だものね。がんばんなさいよ!」
「ありがとう!」
素直にお礼を言い破顔するアルスに、頬をほんのり染めたマリベルは、気恥ずかしくなって目をそらすと、足元の小石をコツンと蹴った。
「…あーあ、どうしてあたしは、三年間も山奥にこもって、修道女みたいな生活しなきゃいけないのよ…。網元の娘なんだから、それこそ水産高校にいきたいのにさ!」
マリベルは、水産高校に行って学びたいと強く主張したものの、女の身で荒海に出るなど危険だと、両親からひどく反対された。
女の子は立派な殿方のもとに嫁ぐのが幸せと、花嫁修行を兼ねて、ギュイオンヌ女学院高校への進学なら認めると言われ、しぶしぶ承諾したのだった。
「ギュイオンヌは全寮制だったっけ?」
「そうよ」
マリベルの返事を聞くと、アルスは、ふと足を止めた。
「そっか…、そうなると、こうやってマリベルと一緒に帰るのも、最後になるんだね」
「………」
幼稚園、小学校、中学校と、ケンカしたり、笑いあったりしながらも、いつも二人一緒に通った道。
互いに別の道を選ぶことで、当たり前だと思っていた日常が、すっかり変わってしまうことに、ひどく物悲しくなったアルスは、ポツリと呟いた。
「さみしく…なるね…」
ひどく物悲しい気持ちになったのはマリベルも同じだが、精一杯の虚勢を張って言った。
「…フン、なにしょぼくれてんのさ!…あたしは、ネボスケアルスのせいで遅刻しなくてすむと思うと、せいせいするわっ!」
「うっ…、僕がネボスケなのは認めるけど、マリベルだって、『髪型が決まらなくて…』なんて、何度も遅刻スレスレになったことがあったじゃないか」
「バカね、レディが身だしなみを整えるんだから、時間がかかって当然よ!…ま、お子さまのアルスにはわからないでしょうけど」
マリベルの言葉に、「お子さまじゃないよ」と反論するアルス。
先程の、しんみりとした物悲しい雰囲気はどこへやら。
いつも通りの賑やかなやりとりをはじめた二人は、再び歩き出した。
あとがき
もしもアルマリが、『全く封印されていない平和な世界の中で、普通の中学生だったら』という長い妄想話です。(笑)
こんな妄想に付きあって下さる神のような方は、後半(現在書き途中)も読んでやってくださると喜びます。
2013年3月11日 風の字
※中に続きます
(※2013年3月14日追記)