はさむ=幸せ?(上) | ナノ
#はさむ=幸せ?(上)


『焼きそばもパンも両方好きだけど、カレーも好きだな!』

笑顔でそういった草凪晃輝の言葉に、意外な答えだと思ったのか、驚いて目を丸くした雉明零は、あごに手をあてて考えるしぐさをすると、本で知ったカレーの知識を披露した。
雉明のその様子を見る限りでは、どうやらカレーについては知っているだけで、実際には食べたことがないのかもしれない。
以前焼きそばパンをあげた時、とても嬉しそうに、大切そうにしていた彼の姿を思い出して、この予想はあながち間違いではないだろうと思った晃輝は、雉明にひとつ提案した。

『そうだ、今度一緒にカレーを食べに行かないか?妙な店だけど、味は確かなところがあるんだ!』

晃輝の言葉に、雉明はまたしても目を丸くしたが、少し寂しげに微笑って、

『…そうだな、それも、いいかもしれない。』

と呟いた。
雉明にとって、《呪言花札》が生み出す負の連鎖を断ち切ることが、今、この場にいる《唯一》の目的である。
たとえ《それ》を実行することが、自分の存在の消滅を意味することであっても…。
不確定な未来を、かけがえのない友人であり、《呪言花札》の執行者でもある晃輝と話をすることに、《心》がギュッと苦しくなった。


***


キーンコーンカーンコーン…
校内に昼休みの開始を告げるチャイムが鳴り響く。

「よしッ、ひとっ走りして、カレーを食いに行ってくるかッ!!」

席を立ち、ググッと伸びをして、軽くストレッチをする晃輝に、後ろの席の壇燈治がにやりと笑った。

「おッ、晃輝!カレー食いに行くのか?」

「ああ。今日はな、零にカレーの素晴らしさを教えるんだ!」

「へへッ、カレーの素晴らしさねェ…。それは俺も行かないと、話にならないだろ、相棒?」

壇もガタガタと席をたつと、ポキポキと指をならし、不敵な笑みを浮かべた。

「おうッ、話が早い!さすが相棒ッ!!共にカレーの素晴らしさを、零に教えてやろうぜッ!!」

「あァ、任せろッ!!」

これから殴り込みにでも行くような、無駄に気合いのはいった二人に、穂坂弥紀と昼食を食べようとやって来た、隣のクラスの飛坂巴が口をはさんだ。

「アンタたち、また脱法行為をするつもりなの?」

いつもの"うるせェの"の出現に、壇はあきれ顔で言った。

「やれやれ、退任した元生徒会長のおでましか?」

「…ふん、生徒会長じゃないのに、アンタたちのことを思って、注意してあげているあたしに感謝しなさい!」

「余計なお世話だっつーのッ!」

「そうか…、そう言えば飛坂はもう生徒会長じゃないんだよな。だったら、飛坂も一緒に行くか?」

「あたしも一緒に…?…ばッ、馬鹿じゃないの!あたしが脱法行為をするわけないでしょ!」

晃輝にカレー屋に行かないかと誘われて、少し戸惑いながらもきっぱりと断る飛坂。晃輝は心底残念そうにして飛坂を見ると、ポツリと呟いた。

「予想通りの返事だな。個人的には予想外の返事を期待していたんだけど…。」

「えっ?」

「…さてと、昼休みも短いし、カレー屋で落ち合うことになってる零を待たせるわけにもいかないな。さっさと行くかッ!」

そう言うなり、晃輝はガラリと窓を開けると、ひらりと近くの木に飛びうつった。

「現地集合か…。そうだな、じゃあ行ってくる。穂坂にはラッシーでも調達してきてやるよ。」

そう言って、壇も窓から近くの木に飛びうつった。
慣れたもので、二人はするすると木を伝って、ヒョイと校庭に着地した。

「ありがとう、壇くん。二人とも気をつけていってきてね。」

「…まったく、ちゃんと休み時間守りなさいよ。」

飛び出した窓から、にこにこと手を振る穂坂と、その横で呆れた様子の飛坂が顔を覗かせて言った。

「…おう。」

と、短く手を振り返す壇の横で、

「飛坂には《今日のお勧めできないカレー》を買ってきてやるからな〜ッ!」

大きく手を振って言う晃輝。

「《今日のお勧めできないカレー》なんて、いらないわよッ!馬鹿ッ!!」

飛坂の怒声と共に降ってきた絆創膏の箱が、コツンと晃輝の頭にヒットした。






毎度長くてスミマセン。
へ続きます。
2010年5月13日 風の字

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