約束(前半) | ナノ
#約束(前半)
壇燈治は、少し苦しそうに腹を抱えながら苦笑いして言った。
「……もう当分、カレーは見たくねェな。」
「…全くだな。」
壇の横を並んで歩く草凪晃輝も、苦しそうに腹を抱えながら頷いた。
「昇天MIX盛りは…さすがにヤバかった…。」
「お前は毎度無謀なメニューを選びすぎだッ!」
自分達が注文した大盛りのカレーと、武藤いちるが注文していった大盛りカレーを二人でなんとか平らげたのだ。
腹が苦しくなるのも当然だろう。
そんな会話を交わしながら歩く帰り道、突如壇の携帯が鳴った。
壇は自分の携帯を覗いてみると、どうやら呼び出しメールだったらしい。
意味ありげに晃輝を見て、「またな」と言うなり、颯爽と走り去っていった。
「…さてと、俺はこれからどうするかな…。」
あっという間に小さくなった壇の背中を見送りながら、晃輝はこれから何処に寄り道しようか考えた。
クリスマス・イブで賑やかな街。
一人でさすらうには少し寂しいが、折角だから、いつもお世話になっているみんなに何かプレゼントでも買って、明日渡そうかと思った。
どんなものがいいだろうかと考えながら、その辺の雑貨屋の窓を覗いて歩く。
明るいイルミネーションと、クリスマスの飾りがセンス良く飾られた雑貨屋の前を通ると、晃輝は足を止めた。
「この店に入ってみるか。」
ドアを開けると、カランカランとベルが鳴った。
「いらっしゃいませー!」
笑顔で迎えた店員に、晃輝はぺこりと小さくお辞儀をして、店内を見回した。
可愛くラッピングされたお菓子やぬいぐるみ、おしゃれなデザインの食器、アクセサリー等が並べられている。
「うーん…どんなのが良いんだろう。」
参ったな…と頭を捻って品物を眺めていると、ふと目に入った品物を手にとって見た。
「これは…」
ピピピピッ―…
晃輝の携帯が鳴った。
ポケットから携帯を取りだし、メールを見ると、それは生徒会長の飛坂巴からだった。
***
それなりに迷いながらもプレゼントを買ったあと、飛坂のメールに従い、3の2の教室に向かい扉を開けると、晃輝はクラッカーで歓迎された。
何事かと驚いて教室内を見回すと、そこには笑顔の友人達の姿があり、いつもの教室がきれいに飾り付けられて、すっかり立派なパーティー会場になっている。
晃輝がこのクリスマスパーティーの主賓であり、彼を驚かそうと飛坂がこのパーティーを企画し、お馴染みの仲間達が力を合わせ、主賓に気取られないようにとパーティーの準備をしていたらしい。
(俺が主賓だなんて…、《呪言花札》の封印のことで、みんな気を遣ってくれたんだろうな…。)
晃輝は、自分の側にある大切な友人らの優しさに、胸がじんと熱くなった。
***
あれほどカレーを食べたと言うのに、《甘いものは別腹》というのは、まんざら嘘でもないらしい。
穂坂、飛坂、武藤の女性陣が力を合わせて作ったケーキは、ふわふわのスポンジの間にフルーツが挟まっていて、程よい甘さのクリームとフルーツの甘酸っぱさが絶妙のバランスで、飛び入り参加の白も気に入ったらしい。
「けぇきとやら…美味いのう…。」
ほっぺにクリームをつけながらおかわりをしている白の横で、パクパクとケーキを食べている晃輝。その様子を見ているだけで腹一杯な壇は「晃輝…、お前の胃袋にはかなわないぜ…」と呟いた。
みんなで飲んで、食べて、馬鹿騒ぎをして…、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
ビルの谷間に消えてしまいそうな夕陽が、パーティー終了の合図となった。
白と女子達が食器類を家庭科室に運び出すと、教室に残った男子は飾りを取り外して、机を元の位置に戻した。
まるで魔法が解けてしまったかように、目の前にはいつもの教室の風景がある。
「じゃあ俺、この飾りを入れた箱、生徒会室に置いて帰るから。…今日は本当に楽しかった。ありがとうな!」
「おう、…また明日、な。」
「晃輝兄ィッ!…わしは…わしゃァ、晃輝兄ィと一緒にクリスマス・イブを過ごせて、嬉しかったけェェ!!晃輝兄ィから頂いたプレゼントは、わしの宝じゃああッ!!!」
くぅぅッと学生服の袖で、目から溢れる汗をぬぐう長英に、
「ッたく、長英は相変わらず暑苦しいな。」
大袈裟なやつだと壇が呆れていると、その様子を見て、宝方がくふふと笑った。
「長英、わかったから落ち着け!…じゃ、また明日ッ!」
通学鞄を背負い、段ボールを抱えながら、笑顔で友にそう告げて、晃輝は教室をあとにした。
長くなるので後半へ続く
2010年5月5日 風の字