約束(後半) | ナノ
#約束(後半)
ガラガラガラ…
「失礼しまーす…っと、この辺で良いかな…。」
晃輝は段ボールを抱えたまま、生徒会室の戸に足を引っ掛けて開け、室内に入ると、邪魔にならないように壁際に段ボールを置いた。
「ちょっと晃輝!アンタ今、足で戸を開けたわね?行儀が悪いわよ!まったく、呼んでくれたら開けてあげるのに…。」
自分しかいないと思っていた生徒会室で突然声がして、驚いた晃輝は慌てて声の方を見た。
椅子に座り、机に書類を広げている飛坂が、ジト目でこちらを見ている。
晃輝は、まずいところを見られたな…と、苦い笑みを浮かべた。
「とっ、飛坂ッ!ははっ…すまない…、手ェ塞がってたから…。それに飛坂も下(家庭科室)にいると思ったからさ。」
飛坂は机の上の書類を片付けながら、書類と晃輝に交互に視線を向けて言った。
「あたしが忙しいだろうからって、弥紀達が片付けを引き受けてくれたのよ。…って、アンタは主賓だから片付けはいらないって言ったのに…。」
「主賓だなんて関係ないだろ。あれだけ立派なパーティーを開いてもらったのに、手伝わない方がバチが当たる。」
「…ふうん。立派な心がけじゃない。」
感心した様子で微笑む飛坂。
晃輝は彼女をまっすぐに見つめると、破顔して言った。
「後進の育成とか忙しい中…ありがとうな、飛坂。」
面と向かって改まってお礼を言われるという不意打ちをくらった飛坂は、慌てて晃輝から目をそらし、書類を見た。
「なッ、べ…別にアンタのためにやった訳じゃなくて、みんなで楽しみたかったのよ!ただ…、それだけなんだから…。それにこれくらい、あたしにかかれば朝飯前よ!余裕なんだから。」
落ち着かない様子で書類を見ながらも強気な姿勢を崩さない飛坂。
いかにも彼女らしい態度だなと、晃輝は小さく笑みをこぼした。
「そうか?そのわりには昼休みもバタバタしていたようだけど。」
「あッ、…アンタの気のせいよ!」
「…んじゃ、そういうことにしておくか…。そうだ飛坂、これ…やるよ。」
晃輝は背負っていた鞄を降ろして、中をガサゴソとすると、綺麗な紙で包装された小さな包みを取り出して、飛坂に差し出した。
「…えッ?プレゼントならさっきもらったわよ。みんなとお揃いのハンカチ。」
飛坂の言うように、先ほどの馬鹿騒ぎの中、晃輝は得意の手品を交えながら、雑貨屋で買ったプレゼントを皆に渡したのだ。
「あぁ〜…あれはまあ…そうなんだが…。でもこれは別で…。」
皆に何をプレゼントしたら良いか…。
無難に使えるものがよいだろうと考えた末、ベタすぎるかもしれないが、お揃いのハンカチを買った。
ただ、飛坂だけには別に、本当に渡したいものがあった。
みんなの手前、一人だけ違うものというのはまずいと思ったので、とりあえずハンカチを贈ったに過ぎない。
機会があれば、この包みを渡そうと思っていた。
まわりに人がいない今がまさにチャンスだと思うのだが…。
なんと伝えようか、晃輝がもごもごとしていると、
「何なのよ?」
痺れをきらした飛坂が聞いてきたので、晃輝は頭をポリポリと掻きながら、歯切れの悪い返答をした。
「…その、なんだ、飛坂会長には常日頃お世話になってるから…感謝の印ってことに…しておくか?」
「何で疑問系なのよ。変な晃輝ね!」
「…ともかく、プレゼントが二個貰えるんだ。ラッキーって思っとけよ!」
「そ、そう。それじゃあ貰ってあげるわよ。」
何だか腑に落ちないと思いながらも、飛坂は晃輝から包みを受けとると、「今開けてもいいの?」と尋ねた。
晃輝が頷くと、飛坂は丁寧に包装紙を剥がしていった。
包みの中には髪飾りが入っていた。
「…紅葉のバレッタ?」
雑貨屋に入るなり、晃輝の目を引いた品、それは色鮮やかな紅葉がモチーフになっているバレッタだった。
それを見たとき、ふと彼の頭によぎったのは飛坂のことだった。
宍戸の件で一緒に焼却炉に潜ることになったとき、彼女に憑いた花札が【紅葉の青札】。
飛坂にしてみれば、札のせいで痛い思いをしたのだから、あまりいい思い出ではないのかもしれない。
だが、それがきっかけで、彼女と行動を共にすることになった。
晃輝にしてみれば、自分と飛坂を繋いでくれた思い出の札である。
そして、飛坂の豊かな黒髪に、色鮮やかな紅葉の髪飾りというのは、なかなか似合うのではないかと思った。
その髪飾りにそんな想いがあるということを、本人に伝えるつもりはない。
それよりも、一番気になるのは、彼女がそれを気に入ってくれるだろうかということだ。
「その、気に入ってもらえたら…嬉しい…と思う。」
晃輝は少し困ったような顔をして、彼女から視線をそらすと、熱を帯びた頬をポリポリと掻いた。
「う、うん。…ありがとう…。」
飛坂も頬を赤らめて視線をおとすと、ぎこちなくお礼を言った。
「………。」
「………。」
二人の間に微妙な沈黙が続き、耐えかねた晃輝が先に口を開いた。
「じ、じゃあ俺、これで帰るから。またな!」
晃輝は鞄を背負い、くるりと彼女に背を向けて教室から出ようとすると、
「あッ…ま、待ちなさい!」
飛坂が慌てて席を立ち、晃輝をひきとめた。
「えっ?」
晃輝が足を止めて飛坂に向き直ると、彼女は両手を腰に当てて、挑むような眼差しで晃輝に告げた。
「今度は新年会をやるんだから、きちんと参加しなさいよ!不参加は認めないんだから!」
いつも通りの彼女の強い口調に、晃輝は頷いた。
「…あぁ、了解!生徒会長命令ッてやつだろ?」
「そう言いたいのはやまやまだけど、その頃はもう生徒会長じゃないから…」
飛坂は、少しさみしそうに目を伏せて、ぽつりと呟いた。
「あたし個人のお願い…、かしら。」
「…飛坂。」
「…って、あたしらしくないわ、今のなしッ!忘れて!生徒会長命令にしておくわ!」
前言撤回と言い張る飛坂に、晃輝は嫌だと首を横に振ると、笑って言った。
「俺は、飛坂個人のお願いとして承った。だから、…はい。」
晃輝は小指をたてた手を、飛坂の前にスッと出した。
「なッ、何よ?」
飛坂はその行動に目を丸くしてたじろいた。
「何って、指きり。」
たじろぐ飛坂を不思議そうに見て真顔で返答する晃輝に、飛坂の頬は再び赤く染まっていった。
「ちょッ、指きりって…。」
「駄目なのか?約束するときは普通指きりだろ?」
恥ずかしげな様子もなくそう言いきるこの男にとって、約束をするときは、指きりをするのが当たり前ならしい。
「駄目って…そんなんじゃないけど…。あー、もう、アンタってホントに馬鹿ね!」
変に意識をすると余計に恥ずかしくなるので、飛坂は自棄になって、晃輝の小指に自分の小指を絡めた。
「あたしと指きりまでしておいて、約束破ったらただじゃおかないんだから。」
恥ずかしさで頬を染めながら、晃輝を睨んでやると、彼は自信に満ちあふれた明るい笑顔で応えた。
「大丈夫だよ、俺は、守れない約束は初めからしないたちだから。」
《呪言花札》の封印には執行者の命が代償となる。
誰だって未来への保証は何もない。
ましてや執行者である晃輝自身の未来への保証は何もないというのに、そんなことをきっぱりと言いきってしまう。
なにか策でもあるのか、もしくは何も考えていないだけなのか?
…それでも、もやもやとした不安を払い除け、不思議と安心してしまう、信じたくなるその笑顔に、彼には敵わないな…と、飛坂は思った。
あとがき
巴ちゃんとクリスマスイベントが見れなかったので、勝手に捏造しました(笑)
てか、主人公と巴ちゃんのやり取りまでの前文が長すぎですね。略してもよかったのかもしれない(苦笑)
クリスマスイベントを見ていないので実際の内容はわかりませんが、主→←巴な話です。
しかし巴ちゃんのクリスマスフラグってなんでしょうね?
朝子先生の見舞いかと考えているんですが…。
見舞いに誘うときの会話可愛すぎでノックアウトでした!!
クリスマスイベント、次こそは見てやるーッ!!【燃】
2010年5月7日 風の字