何でか怪異に巻き込まれる凸凹コンビのお話



小「そういえばこの前言ってた闇鍋どうなったの」
ふと気になっていたことを訊いてみた。
数日前、來が『闇鍋するんですけど、小南さん来ますか!?』とハイテンションで訊いてきて嫌な予感しかしなかったので丁重にお断り申し上げたのだが結果は気になる。
トビはケラケラと笑いながら
鳶「え、アレ?wアレはー、オレと來とー、サソリ先輩とデイダラ先輩と飛段先輩とやったンスよ」
小「まあおふざけ大好き面子ね」
鳶「なんか、入ってたのがカラフル消しゴムとー」
小「初手から食べ物じゃないwww」
鳶「いや食べ物も入ってましたよwwwあのね、よもぎとミルク寒天!www」
小「ねえそれほんとによもぎ?どっかで拾った野草じゃなかった?www」
鳶「なんか青臭かった!wwwあとね、熱帯魚と食品サンプルのエビフライwww」
小「グロいわwwwえ、煮立った鍋に熱帯魚入れちゃったの??人でなしじゃないそれ」
鳶「グッピー入れてましたね、飛段先輩が」
小「アイツかwww」
鳶「なんかビチビチいってんなあとは思ったンスけどwwwまさか生物入れる馬鹿がいるとは思わなくってwww」
小「ちなみにあなた何入れたの」
鳶「オレ?オレはね、消しゴム!」
小「www」
※ 良い子は決して真似しないでね!
闇鍋だから何でも入れていいってわけではない。食えるもんを入れろ。
ツッコミ所が多すぎて笑ってしまった。
トビがフッと仮面の中で笑った気がして慌てて取り繕う。
しまった、気を緩めすぎたかもしれない。
鳶「……來って、ほんと面白いッスよねー」
小「そうね」
鳶「いまさら取り繕わなくてもいいのに」
ぽそっと呟いたトビの感情がわからない声を耳にしながらふと小南が何かを感じたように顔を上げた。
小「……今神の紙者の術で周りを探っていたのだけど」
鳶「え?はい」
小「……さっきまでいなかった……猿?みたいなのがいる」
鳶「猿」
小「うん」
猿。サル。monkey。
鳶「えっと……どこに?」
小「そこ、さっき來が駆け出したあの角よ」
二人が突き当たりの角を左に曲がると小南の言葉通り、床に座り込みキョロキョロと頭を動かす小さな猿がいた。
鳶「あ」
トビはこの小猿に見覚えがあった。
小猿もトビには見覚えがあったのか、小さく「キキッ!」と鳴いてぴょんっと屈んだトビの腕に抱きついた。
小「やだ可愛い」
鳶「えっえっもしかしなくてもジャック?」
小「誰よジャックって」
ちょいちょい、と人差し指で軽く顎下を掻いてあげると若干顔が綻ぶ小猿を見て小南も背中を撫でてあげながら訊く。
鳶「來がディズニーから取ってつけたこの小猿ちゃんのお名前」
小「普通そこア○ーじゃない??」
鳶「やっぱそう思いますよね!?」
小猿ことジャックは紆余曲折を経て來が手懐けた怪異の一部である。
鳶「……今までしばらく動いてるジャック見てなかったけど何か來のとこまで案内とかしてくれない?」
そう、それが本題だ!と言わんばかりにジャックは元気いっぱいに鳴くとこっち!とトビの腕から離れてたったか走る。
鳶「……ああいうとこは 飼い主 に似たんかね」
小「可能性は高いわね」
主にテンションぶち上がるとすぐ走り出すとことか飛び跳ねまくるとことか。
小「……いやあなたも同じじゃない」
鳶「えっ」
よくよく思い出してみれば大体二人してきゃらきゃらとアジトの床抜けるんじゃないかとか心配するぐらいに大騒ぎしている。
來は一人だと騒いだりしないタイプなのにトビと一緒にするとまあ騒ぐのである。それだけトビの隣は來にとって居心地が良いのだろう。
またトビもある程度なら來と一緒であれば爆破されないし殺害予告も受けないので場を面白おかしくかき乱すことができる。おかげでデイダラの胃痛は増すばかりである。若いのに可哀想にね…。
「ウキキッ!」
急かすように鳴くジャックを追いかけて辿り着いたのは左奥の部屋。
鳶「え、ここ?ここにいるの?」
だっこ!と言うように両手をバンザイさせるジャックを抱き上げたトビがジャックに訊く。
小南はその様子を後ろからこっそりと写真に撮った。
鳶「別に気にしませんけどそういう盗撮やめてくださいよねー」
小「人聞き悪いわね」
鳶「てか開かないんだけど」
小「おかしいわね。どこも鍵なんてかかってなかったはずだけど」
ガチャガチャと赤錆の浮いたくすんだ金色をした真鍮のドアノブを握って押したり引いたりするも開かない。
鳶「んー……あ、小南先輩小南先輩」
小「なに?」
鳶「この屋敷、壊すんですよね?」
小「えぇ、そうするってさっき決めた、……ってあなたもしかして」
言質は取ったぞ、と言わんばかりにトビは長い足を振り上げる。
帯「オラァッ!!」
ドアに強烈なヤクザキックをお見舞いするとドアがぶっ飛んだ。
小南は唖然とトビがやり切ったように清々しく汗を拭うようなふりをする様子と文字通り木っ端微塵と化したドアを見比べる。
鳶「來がオレのことマスターキーだって言ってくれたンスよねー♪」
小「あぁ、そりゃ開くわ……」
小南は見た。トビが片手間にぬいぐるみのように抱いている小猿、ジャックが怯えたようにトビの仮面を見上げているのを。
鳶「そこに居んのはわかってるんだよー?早く出ておいでー?」
語尾にハートマークがつく勢いで言う言葉だがいかんせん、絵面が借金の取り立て。
雨が降っているのにさらに板が張られて暗い室内には簡素な机とベッド、そしてクローゼットがあるぐらいだ。
小南が今日何度目かのため息をついてふと窓際の机を見た。
机の上にある本を手に取って開く。どうやら日記のようであった。
【おかしいわ。どうして、私たちの子ども達にだけ、こんなこと。
恨むのなら、私だけにしてほしかった。】
小「……。」
日記は子ども達が次々に不慮の事故で亡くなってしまった悲劇をまざまざと書き記されてあった。
【今日、屋敷を尋ねてきた占い師を名乗る老人がいた。
老人が言うには、想い人と添い遂げることが叶わなかった女性が私たちを祟っているのだと言う。
夫はまさか、と言っていたが声が震えていた。
私にも心当たりがある。
たしかに、あの方ならルイズ様が私と結ばれたことを恨みがましく思うかもしれない。
老人は赤い封筒にその女性の写真を入れて道路に置けば、拾った人のところに行くはずだから時間が稼げるのだという。
拾う方なんてきっといないはずだと自分に言い聞かせてこの子があの子たちが迎えるはずだった14歳になるまで……続けてみようと思う。】
小「……これか」
小南は頭を抱えた。
そういうことだったのだ。
この日記はきっと当主夫人、マリーのものだ。
今思えば不可思議だった。
あの廊下のキャビネットに置いてあった写真があの一枚……しかも二代前の当主夫妻のもの一枚しかなかったことも、この部屋にだけ意味深に鍵がかかっていたことも。
小「……トビ、來見つかった?」
鳶「んー、小南先輩の方こそ読み終わりました?」
小「あとで、ちゃんと読むわ」
ふーん、といつも通り興味なさげな声を出すとジャックが引っ掻いているクローゼットをノックする。
鳶「もしもーし、開けるッスよー?」
一声かけてからキィ…とクローゼットの観音開きになっている戸を開け放った。

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