Obscure








「――妖怪祭り?」
「違う、妖怪たちの夏祭り」
「大差ないと思うけどなぁ」
「ニュアンスが違うだろ」

意味がよくわからないけれど、要するに妖怪たちによる夏祭りってとこかな。

「実は毎年やっていてな、恐がるかと思って誘えなかったんだが、お前と行ってみたいと思っていた。今夜、家を抜け出せるか?」
「う、うん! 行きたい! てか絶対行く!」

食いついた僕がよほど必死に見えたのか、アスランの口元が笑みの形を作った。

「じゃあ八時にいつもの所で」
「了解! 楽しみにしてるね!」

夜にどうやって家を抜け出そうか算段を立て、怪しまれないように早めに戻ることにした僕は、帰途へつく途中、深く考えずに思ったことを口にした。

「でも妖怪ばかりの祭りってちょっと恐いかも……」

しまった、と思った瞬間にはもう遅くて、恐いならやめておくかという台詞を待ったが、いつまでたってもその言葉は発せられなかった。

「……大丈夫だよ。見かけは人の祭りと変わりない。奴らは人の祭りを真似して遊ぶだけだし、何よりキラは俺が守るよ」

代わりに、彼の口から超弩級の爆弾発言が飛び出す。
思わず頬が熱くなって俯いた。

「……そういうこと言われると、飛びつきたくなっちゃうね」

冗談で言ったつもりが、顔を上げるとアスランの、思わぬ真剣な眼差しとぶつかる。

「飛びつけばいい、――本望だ」

本当は、ちょっとだけ期待していた。
きみが僕と同じ気持ちだったらうれしいな、って。
ねぇ、それは。その言葉は僕と同じ想いから言ってくれていると信じていいの?
うれしくて、うれしくて。彼を抱きしめたいのに僕は、きみに触れることすらできない。



約束の八時。すっかり朽ちてしまった鳥居の前にアスランはいた。

「きみって何気に衣装持ちだよね」

私服の僕に対して浴衣を着ていたアスランは、一瞬首を傾げて、ああと意味を理解したのか頷く。

「山神様がいつも持ってきてくれるんだ。おそらく今もこの森を信仰してくれている方々が供えてくれているものだと思うが……変か?」
「ううん、似合ってるよ。僕も着てくればよかったな。来年は――」
「キラ。俺はもう、夏を待てないよ」

突然だった。

「離れていると、人込みをかきわけてでも、キラに逢いに行きたくなる」

遠くで打ち上げ花火が上がった音がする。ドンッ、ドンッと――僕の心臓も同じように鼓動を刻んだ。
ここで僕も、と答えていいのだろうか。答えて、彼を困らせたりしないのだろうか。
胸元のシャツを握り締めて、考えた末に僕は頷いた。

「僕も、だよ……本当はずっと毎日でもきみに会いたい」

言い切ると同時に恥ずかしくなって俯いた。
大きな花火が上がって、暗闇が一瞬だけ明るくなる。
その視界にアスランの足元が見えて、微かに顔を上げると、いつも彼がつけている仮面が顔に被せられた。
それから、仮面越しのキス。
思わず肩に力が入ってしまい、棒立ちになってしまった。

「それ、キラにあげるよ」

こんなにも近いのに、触れられない。
でも仮面を貰ってよかった。泣いている顔を見られたくない。

「……行こうか」
「……うん」

きっとアスランは、次の夏、あの場所には来ないのだろう。
そういう予感がした。
きっとこれが最後の――。

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