まだまだ、目を開けないで、





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高校に入学してから2回目の文化祭を明日に控えて、校舎内は準備のため、いつになく浮ついた空気が流れていた。
文化祭が行われるのは毎年10月最後の日曜日。今回は10月29日だ。


「キラー、悪い。セロハンテープと糊、生徒会から貰ってきてくれないか?」
することがなくて作業を見守っていた僕は、クラスメイトの言葉にわかったと頷いて教室を出た。

歩いていると、さまざまな看板が目に入る。お化け屋敷、縁日、占い……どれも一般的な模擬店で、思わず小さくため息をついた。

僕たちのクラスは、入学時から校内女子のハートを鷲掴みにしたアスランがいるせいで、コスプレ写真喫茶というイロモノ模擬店を出店することになっている。お茶を楽しみながら、好きなウェイターと写真が撮れるというコンセプトらしい。

本来なら彼だけが目当てになりそうな模擬店など、男子からブーイングが出てもいいところなのに、全く出ないのだから彼の人望が知れる、っていうかずるい。

そして彼の人に好かれるそれはクラスだけにとどまらない。

彼は2年生にして生徒会長に選ばれていて、今やほぼ全校生徒の人気を集めているといっても過言じゃない。
その証拠に、この僕が。
今、女の子に声をかけられている。

「ヤマト先輩! これ、ザラ先輩に渡してください」
とまあアスランへの誕生日プレゼントを託されるのだから、たまったもんじゃないよね。

拒否することも憚られて仕方なく受け取ると、女の子たちは最後まで言い終わらぬうちに悲鳴とともに去っていく。傍から見たら、僕が妙なことをしでかしたように映るのではないか、と心配になった。
息をついてから、再び歩を進める。

彼の人気は本当にすごい。例えるならそう、アイドルが学校に登校してきた、みたいな。彼は一応、普通の人のはずだけれど。

だから最近、自然と考えるようになった。入学式の日にアスランから告白されて1年と半分。

クラス替えがないので、それだけの間、クラスメイトをしてきた。
不本意でも、ずっと一緒にいれば認めざるを得ない。彼の本気と優しさを。


今年のバレンタインデーや誕生日にも変わらぬ愛を伝えられたけど、僕は曖昧な態度ではぐらかした。
本音を言えば、応えてあげたい、と思う。

ただ、それが彼の示す好意と同じものかと聞かれると、頷けなかった。
僕はアスランに対してずいぶんと酷なことをしていると思う。優しさを踏みにじっているのと同じだ。

そうだとわかっていて。

ブレザーの下に着た薄手のパーカー。
そのポケットに手を突っ込むと、指先に触れる硬い感触。

僕は一体何がしたいんだとため息をついた。




沈んだ気持ちのまま教室に戻ると、雑用を頼まれた人物とは別のクラスメイトに捕まり、首を傾げる。

「あ、ねえヤマトくん。ザラくん見なかった?」
「見てないけど……いないの?」
「うん、さっきから探しているんだけど彼も生徒会で忙しいだろうし、呼び出すってわけにもいかなくて。彼の採寸の番なんだけど……」「そっか……じゃあ僕も探してくるよ」

困り果てたクラスメイトをそのまま放っておくわけにもいかなくて、間髪入れずそう返事すると彼女は驚きとほっとした表情を織り交ぜて、感謝を口にする。
「ごめんね、ありがとう! ザラくん終わったら次ヤマトくんだから」
「そっか、じゃあ遅くなるといけないから、後回しで先に進めといて」
言いながら教室を後にした。







「こんなとこにいた」

少し大きめの声で呟くと、机に伏せていた人物がもそもそと顔を上げる。

「――キラ」
教室を出てから15分ほど経った頃、僕はようやくアスランを見つけることができた。
彼がいたのは旧校舎に程近い空き教室。夕日の名残が美しいグラデーションを生み出して、教室と彼の輪郭を染めていた。

「衣装担当の子が困ってたよ、ザラくんがいない、って」
「あぁ……すまない。キラにも迷惑かけた」
「別にこのくらい、僕も用事あったし。はい、君にって女の子から」
ここに来るまでの間に託されたプレゼントをアスランに渡す。

「……悪いな」
複雑そうな表情で受け取るのが見えたけれど、僕はあえて見ないフリをした。その会話の後、黙り込んでしまうアスラン。
部屋を包む静寂に、そのまま立ち去るのも変な気がして、コンと机の端を叩いた。

「……さっき。もしかして寝てた? 忙しいの?」
「いや、まあ……ここだけの話、寝不足だからちょっとだけサボってた」
彼は自嘲的に笑って、それから再び部屋の中が静かになった。気まずい。どうしよう。そう思った瞬間、今度はアスランが口を開いた。

「そういえばキラは誕生日プレゼントくれないの?」
「……普通、プレゼントは催促しないんじゃないの?」
「してみただけだよ」

言ってからアスランはふっと笑って僕を見た。その視線に耐えられず目をそらす。彼はエスパーか何かなんだろうか。

「ていうか大体さ、君の誕生日明日じゃん。まあ明日は文化祭だし、それを見越して今日渡してくるんだろうけど……渡すんだったら自分で渡せばいいのに」
言いながら僕は彼の正面に回って、パーカーのポケットに入れていたものを彼の手を取りのせた。

「キラ?」
丁寧にラッピングされた長方形の箱。ひと目でプレゼントとわかるそれの意味を言外に問われて、口を開く。


「さっき君が催促したんじゃないか。だから、あげる」

思わせぶりなことをしているかもしれない、という葛藤の末に買ったものだったから、反応が怖い。
恐るおそる彼の表情を見て、少しだけ後悔した。

とても、嬉しそうだったから。

「開けてもいいのか?」
アスランの問いに頷くと、彼は丁寧に包装紙を取り払った。そして中から出てきたのは、プラスチックケースに収まった細身のシャープペンシル。

ふらりと立ち寄った文房具店。買う予定のなかったシャープペンシル。
一目で君に似合うと思った。君の指先がとてもきれいだったから。なんて絶対に言わないけれど。

「すごく嬉しい、ありがとう」
アスランがそう告げるのと同時に、彼は座ったまま僕のことを抱きしめてきた。

「ちょっ……!」
「――少し、だけでいいんだ」

本当に僕はアスランに対して酷なことをしている。
離してよ、その一言を5秒だけ待って。
僕は彼の頭を軽く撫でた。


「、少し早いけど、誕生日おめでとう」




END

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10/07スパークで配布したペーパーを改変したものです



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