ねぇ、もうあきらめてよ






高校の入学式の日、告白された。
中学時代は女の子に全く相手にされなかったし、このままずっと彼女も出来ずに一生を終えるんだとさえ思っていた。
そんな僕にもようやく春がきた、しかも高校生になってすぐに!
これほど嬉しいことはないだろう。男冥利に尽きると言い切ってもいいんだろうね、本来なら。


振り返った先にいたのは、同じ制服を着て、やたらイケメンの――男だった。



今日も突き刺さるような視線に根負けして僕は顔を上げる。

「キラ」
ニコリと笑ってこちらに手を振る男――アスラン・ザラ。つややかな髪に翡翠のような瞳、スラリとした身長に物腰柔らかな性格、そして頭もいいときた。非の打ち所がないとはこのことを言うのだろう。

こんなパーフェクトな男を前にして、女の子たちが放っておくはずもなく、休み時間のたびにクラスの外にはちょっとした人だかり。普通の男なら自信喪失して横には並びたくないし、僕もそうだ。だって比較されたくないんだもん、ただでさえ母親に似てちょっとコンプレックス感じてるのにさ。

だというのに彼はその嫌味のない性格から男にも人気で、そして何かにつけて僕に構いたがる。その理由というのが、アレだというのなら勘弁してほしいところなんだけど。


「何、用がないなら呼ばないで」
「次の数学、キラが当てられるだろ? ずっと苦戦しているようだから教えようかと思って」
「う……」

アスランの言うとおり朝からずっと問題が解けなくて、昼休みにまで突入してしまった。授業が始まるまでそう時間がない。
せめて性格が最悪だったら突っぱねることも出来たのに、そう言われてしまっては断ることもできない。

彼は無言を了承ととり、逆を向いて僕の前の席に座ると、その端整な顔を躊躇することなく近づけてきて、僕はびっくりして少し仰け反った。

「ああ、なんだ、ここまで出来ているならあと少しじゃないか」
しかしアスランは気にすることなくサラサラと説明をノートに書いていく。
間近で見ると睫毛が長いな、と思った。ペンを持つ指も僕と違って長いし大きいし羨ましい。天は二物を与えずっていうけど、ニ物も三物も与えられているような気がする……ああ、でも好みに問題ありかな。


こんなに完璧なのに、僕なんかを好きだって告白してきたのだから。


「キラ、聞いてるか?」
「!! き、聞いてる聞いてる…!」
実際は聞いてなかったけど、考えていた内容が内容なだけに嘘をついた。するとアスランは満面に笑みをたたえる。

「そう、なら放課後に……」
「へ?」
タイミングが良いのか悪いのか――僕にとっては間違いなく後者だけど――チャイムが鳴って、アスランは席を立つ。周囲もそれに倣って、僕の問いかけは椅子の音に紛れて彼には届かなかった。

授業が始まってすぐに予告どおり指名され、教師に回答を迫られる。整然と並んだアスランの文字をそのまま読み上げると、教師は破顔して褒め称えた。
別に僕一人でここまで辿りついたわけではないし、少しだけ燻る思いを抱えながらチラリとアスランに視線をやる。

すると、ばっちりと目が合ってこちらに向かって柔らかな笑み浮かべていた。
前から思っていたけど、やることなすこと、どことなくキザだよね。なのに違和感ないのだから、やっぱりイケメンってずるい。

さて、これで今日の僕の課題は終わったも同然なんだけど、急遽最大の試練が出来てしまった。
頭が痛い。いったい僕はアスランと何を約束しちゃったんだろう。





「キラ」
「ははは、はい!」
「? 何をそんなに慌ててるんだ?」
「気のせいじゃないかな」
「そうか? まあ何ともないならいいけど……じゃあ行くか」

どこへ!? とは聞けない。約束を破るわけにもいかず、カバンに筆記用具を詰めてアスランの後に続いた。

そうしてついた場所は校舎の1階にある図書室。

「どうした? 今日の数学の復習をするんだろ? 教科書より参考になる本があっちにある」
言うが早いか、先立って歩くアスランをしばし見遣ったあと、少しだけ早歩きで追いかける。

なんだ、そういうことだったのか。何かとんでもないことを約束したのかと身構えていただけに、呆然としてしまった。
そんなことでぐるぐる悩んで、僕、バカみたいだ。だって、杞憂に過ぎなかったのだから。

「この本もいいが、あっちのやつもわかりやすい」
「え、これ?」
背を伸ばして本を選び取ろうとしたところで、覆いかぶさるようにアスランの手よって遮られ、彼のもう一方の手がそのひとつ隣の本に伸びる。
「違う、こっち」

平然とそういうことをしてきて、ドギマギしているのは自分だけ。実は告白されたのは嘘ではないのだろうか、と錯覚するくらい自然な態度に、本音がこぼれた。

「思ったんだけど、アスランって素でたらしだよね。そんなんじゃみんな勘違いしちゃうよ」
「……どういうことだ?」
「だから、」
思わず大きな声になり、ここは図書室だったと後半は声を潜める。

「そんなに優しくしていると、自分に気があるのかもって勘違いされちゃうよ、ってこと」
「……少なくとも、俺はキラに気があるから、間違った行動ではないと思うが? キラが勘違いしてくれたら俺は嬉しい」

アスランの声が、耳朶に響く。ビクリと肩が震えた。
振り返れば、その表情はあの日と同じ、真剣で、どこか甘い。

「好きだよ、キラ」
「…………趣味悪いよね、アスランって」

あまりの恥ずかしさに、突っぱねた態度をとる。
でもこんなこと言われてそうならない人いないでしょ。いたら見てみたいよ。

不機嫌を丸出しにしているというのに、変わらず甘い笑みを浮かべるアスラン。
全く堪えた様子がない。僕は思わず大きなため息をついた。



ねぇ、もうあきらめてよ。



――好きになってしまいそうだ。



END

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アスランって、素でキザったらしいことしそうだよね、と思ったので。
続き書けたら書きたいな。


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