プラントから内密に届いた通知に、アスランは深いため息をつく。
どうしようかと手の中の書面を持て余し、あてがわれた自室から出たところで彼の幼馴染もちょうど部屋から出てくるところだった。
「キラ! ちょうどいいところにいた、今いいか?」
「うん、何ー?」
返事をしながらパタパタとスリッパの音を立てて駆け寄る。
「これ、見てくれないか」
「……なんだかすごい封緘してあるけど…僕が見ていいの?」
「くだらない内容だからな、かまわない」
キラがすごい封緘といったそれには、プラントの印が刻まれていた。
くだらない内容と言うアスランに首をかしげつつ、彼から封書を受け取り、折りたたまれた書面を開く。
「えーと…………えっ、これって、どうして?」
「プラントからすれば事実上、俺はA級戦犯みたいなものだからな。臨時最高評議会議長のカナーバ氏含め、現プラント最高評議会メンバーから温情を賜り、何のお咎めもなくオーブへ亡命させてもらっている状況なんだ。それはわかるな?」
「……うん」
キラの頷きを待ってから、アスランはゆっくりと口を開いた。
「じゃなきゃとっくに捕まっているか殺されている、というのは?」
「っ……でもアスランは」
「お前の言いたいことはわかる。だが、ジェネシスを、むやみに戦火を拡大させたことは、俺に非がなかったことだとしてもダメなんだ。父親を説得できなかった息子。市民からすれば結果がすべてなんだよ。それに……血の、バレンタインより以前、お前と月で別れてから、俺もパトリックザラの息子として、ラクスと共にプロパガンダ活動をしていたからな」
アスランの口から次々と語られる内容に、キラはああとかううとか言葉になっていない声を上げる。
本気で苦悩しているようだった。
「でもっ! だからといって、君だけが名前を変えろだなんて、あまりにも横暴だ! ……両親からもらった、大切な、名前なんだよ……」
するとアスランは眉毛を下げて、微かな笑みを浮かべる。
「名前が変わっても、俺は俺だから……」
「そんなのわかってるよ! 君は君で、アスラン以外何者でもないよ! だから――」
「俺はお前が、周りが知っていてくれさえいればいい」
キラは息を飲んだ。
落としそうになった書類をすかさずアスランがキャッチし、彼は尚も話を続ける。
「だから名前なんて本当にどうでもいいんだ。……むしろ、どうでもよすぎて正直めんどくさい」
今にも紙を丸めてしまいそうな勢いに、1度は彼の手に戻った書類を、キラは慌ててひったくった。
「ちょ、ちょっと大事な書類なんだから!! ……はぁ。君からめんどくさいって言葉を聞くと、ひどく違和感を覚えるよ……アスランが見かけによらず、ものぐさってことは知ってるけどさ」
脱力して、キラはがっくりと肩を落とす。
自分の名前を変えて生きていかなければならないというのに、当の本人は全く気にする様子もなく、むしろ面倒とまでのたまった。
「特に申請が必要なものでもないし、ああ、でも市民登録を申請しなきゃならないから、本当にオーブではその名前になるんだな。なあキラ、決めといてくれるか?」
「……はい?」
アスランとは現在、10センチほど身長差がついてしまい、どうしてもキラからは見上げる形となってしまう。じっと胡乱な眼差しをアスランに送った。
「君、今なんて言った?」
「え、だから名前。キラが決めといてよ」
「どうしてそうなるわけ?」
聞き返したところでちょうどカガリが行政府から帰ってくる。
ひどく疲れきったカガリを労いながら、キラは声を上げた。
「あ、そうだ! そういうことならカガリも一緒に名前、決めようよ!」
「……はい?」
「さすが双子だな、同じ反応」
ふっと笑いながらアスランはカガリのためにお茶を淹れる。
彼が双子の神秘に感心していたところへ、カガリは爆弾発言を投下した。
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