をつかなきゃ幸せになれないから






「っっっってアアアアスラン!! まま、まさかお前たちの間に子どもが…」

ばしゃばしゃと派手な水音がして、キラはちらりとそちらを見てから、さっとカガリ視線を戻す。

「……あー、カガリ? 僕たち男同士だからさ、仮にそういう関係だったとしてもできないから。どっちも種馬だから。っていうか誰が産むのさ」
「そ、そうだよな! 悪い、私の早とちりだ」
「真面目な話、男が子どもを産めるようになったら少子化の歯止めになって、未来のない僕たちにも明るい未来が開けるかもしれないけど…混乱って言葉じゃ収まらない事態になるでしょ」
「そうだな……想像しただけでも、恐ろしいな」

ソファに腰掛けて討論する双子に対して、アスランといえばいまだ停止状態だ。

「全く……アスランもいつまで固まってんの。ラクスに怒られたくなかったら、早くそのこぼしたお茶拭いてよね。第一君とセックスした覚えはないんだから、仮に僕が妊娠できる体だったとしてもありえないよ」
「キキキ、キラ!! そ、そういう言葉をだな! 開けっ広げに使うのはどうかとおお、思うぞ、私は!」
「お、俺もそう思う」

ありえないと一刀両断するつもりで言ったキラの台詞を、実直な二人は、それぞれとんでもない受けとり方をして、的となった人物を黙らせる。
なんともいえない脱力感がキラを襲った。

「……めんどくさい。すごくめんどくさい。もう"タロウ"とかでいいんじゃないかな、アスランの名前」
「なっ……」
「ダメだキラ! やっぱり男らしく誠とか正義とか…」

さすがのアスランも、キラの投げやりな態度に声を上げようとしたが、カガリの的外れな台詞がそれに被さる。そして悪乗りした片割れは嬉々と反応した。

「正義? あ、じゃあセイバーとかどう?」
「いや、アスランだから"ア"は残したいだろう?」
「えー、"アセイバー"? なんだかアメーバーみたいで根暗が余計根暗っぽくなるけど…」

好き放題言い合う双子に口を挟もうとするアスランだったが、二人の勢いは止まらない。どうしたらいいのかと考えあぐねているところへ、この家に住む住人の一人が部屋に入ってきた。

「みんなで何を話しているんだい?」
「あ、バルドフェルドさん! そうだ、砂漠の虎の異名を持つバルドフェルドさんにも聞きたいんだけど、偽名ってどうやってつけたらいいかなあ? アスランの偽名作成に悩んでいるんだけど…」

いつの間にか壮大となってしまった偽名つけに、同じく同居人のアンドリュー・バルトフェルドが加わる。

「異名自体はボクがつけたわけではないのだけどね……ふむ、いいだろう、良い名がある。ボクは職業柄、心理学に精通していてね。心理学の開祖で哲学者のアリストテレスも学んだものだよ」
「?」
「何か関係あるのか?」
疑問符を浮かべるキラとカガリの言葉にまあ待て、と彼は話を続けた。

「アリストテレスとは古代ギリシアの哲学者だ。古代ギリシアにはギリシア神話というものがあってだね、その神話に出てくるギリシア十二神にヘラという女神がいる」
「女神! ラクスみたいだね!」
「そのままだとあながち間違いではないな。ヘラは元々ヒーローが変じたもので、戦場における"戦士の庇護者"という説もあるんだ。その称号のひとつとして、"アレクサンドロス"というのがあったらしい。今風で言うと、"アレックス"か。それなら「ア」を入れるというのもクリアしているし、いいだろう?」
「バルドフェルドさんすごい! 博識! かっこいい! 惚れちゃいそう!」

頬を高揚させてバルドフェルドにじゃれるキラに、アスランは少しムッとする。
幼少時代、それは彼の役目だったからだ。

「これから世界を担う君たちに当てるにはぴったりの名だ」

一方のバルドフェルドは、何でもないようにキラの頭をわしゃわしゃとかき混ぜる。

「じゃあファーストネームはアレックスで、ファミリーネームはどうしよう…」
「あっ、それは私が考えておいたぞ! お前に用意した車、昔大西洋連邦で流行したディーノという車をモチーフにしているんだ。だからディノはどうだ?」
「え、じゃあディーノじゃだめなの?」
「ディーノってタイプじゃないだろ、アイツは」
「それもそっか」

「じゃあアスラン、改めアレックス・ディノ、よろしく!」










「っていう夢を見たんだけど、アスラン、偽名悩んでたよね、どうかな、アレックス・ディノ」
「…………いいんじゃないか、それで」


こうして、アスランの偽名はキラの夢によって決められたのであった。





END

-----
その後のアスランとキラ

「ファミリーネームの方、やけにいい加減だと思わないか」
「じゃあ僕が読んでる漫画にいい名前があったから、そこから取ったって言えばよかった?」
「…いや、今のままでいい」


何の漫画かは、想像にお任せします。


目次に戻る

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -