言葉では足りないこの気持ちを、












館内を走って、目的のブリーフィングルームに足を踏み入れる。


「アークエンジェル所属、シン・アスカ。ただ今…」
「おそぉぉい!!!!」

入るなり怒鳴られておれは目を丸くした。それから慌てて時間を確認する。しかし間違えたと思っていた時計は、約束の時間まで、あと5分以上時間があると示していた。

「え!? だ、だって1300にここに集合って……」

言い訳は通じないとわかっていたが、今日は一人ではない。従者のごとく控える、比較的常識を持つ人にチラッと視線をやった。
その人はおれの視線を受けて短く息を吐く。

「イザーク、俺たちが早く着いただけなんだ、そう癇癪おこ」
「うるさぁあい!! ディアッカ、先輩である貴様が新人の味方してどうする!?」

頼みの綱、ディアッカさんの言葉は途中にもかかわらず一刀両断され、お手上げのジェスチャーだ。
そうなるのは何となくわかっていたからいいけど、最後の台詞には納得できない。

「ちょ…いつまでおれを新人扱いするんですかイザークさん!」
「ふんっ、貴様は俺から見ればまだまだヒヨッコの新人だ」

切りそろえられた美しい銀髪を揺らして、イザークさんは腕を組んだ。
彼の白服とおれの赤服がイザークさんの言葉を真実とする。

結局、遅れていなくても、彼より遅ければ一緒だったということだ。


はぁ、と大きなため息をつく。
すると、その原因となったイザークさんが何かを差し出しながら、「ため息をつくと幸せが逃げるぞ」と忠告された。
誰のせいで、という言葉を何とか飲み込む。

「こっちは俺から」

そこへディアッカさんもおれの方に袋を差し出してきて、ハッとしてイザークさんを見た。

「え!? え!?」
「貴様、今日誕生日だろう?」
「おめでとーってね」

イザークさんからは小さな白い袋に入ったものを、ディアッカさんからはアカデミーで使ったノートほどの大きさの重みのあるものを渡された。
アスランに続き、まさかの出来事、しかもヤキンの英雄に祝われて、視界が少しだけ揺らぐ。

「あ、ありがとうございます、イザークさん、ディアッカさん!!」

家族を失った時、自暴自棄になって命を絶たなくて良かったと心底思った。

「ふんっ、礼を言われるようなものでもない」

吐き捨てるように言って、イザークさんは顔を背ける。
その態度に、おれはディアッカさんと一緒になって苦笑をもらした。



「そういえばディアッカさんのやけに重いですが、何が入って…」

すぐに取り出せるようになっていたから、特に考えもせず取り出すと、何も身につけていない女性が表紙を飾った本が出てきた。

「う、うわぁぁあぁああ」
「ディアッカ貴様ァァア!!!!」
「健全な青少年には必要デショ。っても、もう必要ないか?」

ディアッカさんの視線が俺の持っていた箱を指していて、ぶんぶんと否定する。
ってディアッカさんから貰った物が必要だっていう意味じゃないからな……! 必要、なくはないけど。


「これはアスランからさっき貰ったやつで…」
「アスランだと!? なぜ彼奴がここにいる!!」
「あー…オーブ代表からの定期連絡ですよ。普段はアスランが来ることはないんですが、キラさんが熱を出して倒れたことをどこかからか耳ざとく聞きつけてきて…」

実際、初めはおれもいつも来る人ではなく、アスランだったことに驚いた。
それを知ったキラさんが、駆けつけるわ寝ないわで熱を悪化させて、ラクス様へ報告に行っている間、おれを監視役にするし…。
本当に困った二人だ。

「けしからん、案内しろ」

訂正する。本当に困った三人だ。

「……イザークさん、評議会への参加は…」
「どうとでもなる、というか時間はまだある、行くぞ」
「え、えー…」
「……言い出したら聞かないから、案内してくれる?」

諦念を込めた口調で告げる。
きっとディアッカさんもすごく苦労してきたのだろうな、と思った。




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