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「キラさん、入りますよー」
二人を連れて、キラさんの超無駄に広い私室に入る。
すると目の前には見覚えのある二人がいた。
「ルナ? メイリンまで…なんでいるんだ?」
キラさんの部屋に居るには少し違和感を覚える2人を見て、おれは思わず入口で立ち止まる。
気がついたメイリンがそれに答えてくれた。
「私たちだけじゃなくって、あとでヴィーノくんにヨウランも来るよ」
「なんであの2人が…」
疑問は深まるばかりだが、メイリンはそれ以上口にすることはなく、曖昧な笑みを残してその場から去っていく。
何なんだと思いながらルナに声をかけた。
「何、アンタもう戻ってきたの〜?」
「どういう意味だよ、ルナ」
「そのままの意味よ…って、えっイザークさんにディアッカさんまで、どうされたんですか!?」
驚くルナに対して、ディアッカさんが手を上げる。
「おひさし。評議会でちょっとね。二人とも相変わらず可愛いね」
「ディアッカさんたら!相変わらずうまいですね!」
バシンとルナが遠慮なくディアッカさんの背中を叩いた。
あれは痛いに違いない。
だというのに表情を変えることなく笑みを浮かべるディアッカさんに、おれは称賛の拍手を心の中で叩いた。さすがヤキンを生き抜いた英雄だ。
「あらあら、ずいぶん賑やかですわね」
そこへ、背後から聞こえた涼やかな声にビックリして振り返る。
「ラ…ラクス様…! どうして…」
「あら、キラに呼ばれましたのよ、シンさんの誕生日会に」
おれの問いかけに対して、プラント1忙しい彼女はとんでもない理由を告げた。
「はああ!? キラさんん!!?」
ラクス様を前にしているというのに、遠慮のない声を上げてしまって、慌てて口を閉ざす。全身に汗が伝うような感覚を味わいながら、キッと背後に視線をやった。
サッと視線をそらすルナ。こうなったらルナに聞くより本人に聞くほうが早いだろうと思った。
ラクス様がイザークさんとディアッカさんとで話し始めたのをいいことに、おれはルナとメイリンを押しのけ部屋に進む。
その先のリビングには呑気に座るキラさんとエプロンをつけてキッチンに立つアスランがいた。
「あ、早かったね、シンくん」
「アンタ熱は!?」
「気合いで下げたよ?」
「意味がわかりません。そしてアスランもアンタ何やってんだ!!!!」
「ちょうど良かった、適当に掛けてくれ。もうすぐ準備できる」
答えになっていない。
呆れやら何やらで言葉が継げないでいると、話を終えたイザークさんが乱入し、アスランにつかみかかった。
ナイスですイザークさん!!
「貴様ぁ! 病人を寝かさず何をやってんだ!!」
「あぁ、イザーク久しぶり。これ机に並べてくれ」
アスランはイザークさんに揚げ立ての唐揚げが乗った皿を渡した。
おれは予想外の出来事に目を見開き固まってしまう。
ヤキンの英雄に…なんてことを……あ、アスランもその一人だっけ。
「きさ、ま…」
「そう怒るな。キラたっての希望で行うシンの突発誕生日会なんだ。文句なら後で聞くさ」
それを聞いて、イザークさんは黙り込んだ。
おれも様子を見守っていると、アスランから乱暴に皿を受け取りこちらにやってきた。
なんということだ、キラさんの前では誰も勝てないということなのか…。
「シンくん、座って?」
潤んだ瞳で言われ面倒なことになる前に、とおれは従う。
「…ほんと、熱大丈夫なんですか?」
「うん、さすがにアスランの料理は食べられないけどね」
当たり前だ。病人にこんな食事させることできるか。
まあ、心配せずともアスランが専用の食事を作っているだろうけど。
おれは軽くため息をついた。
「ったく、アンタ何考えてんですか」
「シンくんの誕生日を祝いたいだけだよ」
「病人のくせに…」
「うん……でも、バタバタしていたせいでいろんな人の誕生日を祝えなかったから…あ、ほらヴィーノくんとヨウランくんがケーキ買ってきてくれたよ!」
話の途中でキラさんは立ち上がり、やってきたおれの同僚を歓迎する。
話がうやむやにされた感が否めないが、こうなったキラさんが止められないことは、ここにいる誰もが知っていることだ。
しょうがないな、と再びため息をつく。
どうしても緩んでしまう表情をおれはうまく隠せているだろうか。
うつむきがちに呼ばれた方へ行くと、みんなに囲まれて、一斉にクラッカーが鳴らされた。
ビックリしていると、にっこりと笑ったキラさんと目が合う。
「ハッピーバースデーシンくん!!」
ああ、やられた。本当に敵わない。
一生尊敬の対象だな、とおれは隠すのをやめて盛大に笑った。
END
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日記で上げたものに加筆修正を加えてより長くなりました…。
一応、本編のその後を若干捏造しつつ、都合の良い感じに変更した時間軸です。
ちょっとでも笑ってもらえたら幸いです^^
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