きらきら、光る | ナノ
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 追憶の中の君


夢を見た─
それは僕が子供の頃の記憶で。
当時、両親が共働きで弟も産まれてなかった僕は一人ぼっちで、毎日寂しい思いをしていた。
そんな時に出会った、大切な人─

「庄…!」

いつもきらきら輝いていて、
白く、大きな羽根を持ち、
優しく微笑む君─

「ふふ、庄ー!」

君に名前を呼ばれる度に、
触れる度に、
寂しかった思いなど消え、
心が温かくなった─

「庄、大好きよ…」

ああ、僕も君のことが…─


「ん…夢…?」

カーテンの隙間から差し込む日差しの眩しさに徐々に意識が覚醒していく。
なんだか、とっても大切な夢を見ていた気がする…。

ぼんやりと寝起きの頭で考え、ふと時計に視線を向けると普段起きる時間よりも30分も過ぎていた。

「やっば!遅刻する…!」

慌ててベッドから飛び起きた僕は急いで学校へ行く準備をした。



「庄左ヱ門ー!」

「きり丸!」

なんとか普段通りの時間までに家を出ることが出来た僕がのんびりと学校への道のりを歩いていると後ろからきり丸が声を掛けてきた。

「んんっ?何か庄左ヱ門疲れてねーか?」

「ああ、ちょっと寝坊しちゃって…」

「へぇー、珍しいな!庄左ヱ門が寝坊するなんて!」

僕の顔を覗き込むきり丸に苦笑いを浮かべると彼は目を見開いて僕の顔を凝視した。そうかと思うと今度はニヤリと口元を歪め、意地の悪い表情をする。
なんか嫌な予感…。

「何?昨夜は随分とお楽しみだったのかな?庄左ヱ門くん」

「はぁ?そんなわけないだろ!」

「最近乱太郎も伊助も、庄左ヱ門の様子が変だって言ってたしな〜」

「だーかーら!そんなんじゃないって…!」

僕の肩に腕を回してニヤニヤと笑うきり丸の腕をぺいっと払い、すたすたと先に歩くが丁度信号が赤に変わってしまったためすぐに彼も追い付いてしまった。
最悪だ…。

「実際どうなんだよ?彼女出来たのか?」

「それは…」

「わぁ!逃げろ逃げろー!」

きり丸に名前さんのことを話そうか躊躇していると僕の横を数人いた小学生のうち一人の男の子が横切る。

「危ないっ!!」

「庄左ヱ門!?」

赤信号で飛び出して行った男の子の腕を咄嗟に掴み、後ろに引き寄せる。辺りには車のブレーキ音が響き渡った。

「(あれ…?何だ、この感覚…)」

「危ない!!庄っ!!」

「っ!!」

ドクンッと自分の心臓が一際大きな音を立てる。途端、一つの記憶が頭の中に流れ込んで来た。

「庄左ヱ門!大丈夫か!?」

「あ、ああ」

「危ねえだろうが!!このガキんちょ!!」

「うわーん!ごめっ、なさい…!」

間一髪、僕が小学生の男の子を引っ張ったことにより車と接触することはなかった。怒鳴るきり丸に男の子はぼろぼろと涙を流し、嗚咽を漏らす。その傍らで僕は何もすることが出来ず、佇んでいた。

「きり丸、悪い…僕、今日は学校休む!」

「え、庄左ヱ門!?ちょ、オイ!!」

きり丸が呼び止める声も聞かず、僕はその場から走り出した。
思い出した!何もかも、全部!名前、君のことも全て…!

「名前!!」

いつも彼女がいる小高い丘に来ると案の定そこには木に寄り添うように座る名前の姿があった。

「庄…?どうしたの?こんな時間に…そんなに慌てて」

漸く咲いた名も知らぬ木々の花を眺めていた彼女の名前を強く呼べば名前は驚いた表情でこちらを振り返った。息を切らす僕を不審に思ったのか名前は立ち上がって僕の方に歩み寄る。

「思い、出したんだ…」

「え…?」

「名前…君は、"天使"なんだろ…?」

「っ!?」

僕の言葉に名前は目を見開き、僕の元に辿り着くことなくその場に固まる。自分の胸元を掴んでいた彼女の手は小さく震えていた。

「僕がまだ子供の頃に、君はいきなり僕の元にやって来たね…」

真っ白な綺麗な羽根を羽ばたかせ、突然空から舞い降りて来た名前。今よりも幼い顔立ちで、一人庭先で遊ぶ僕を興味深げに眺め、時折楽しそうに笑みを漏らすのが印象的だった。

「勇気を出して声を掛けた時、君は酷く驚いた顔をして、そのまま何かに躓いて後ろにひっくり返ってたね」

「そ、それは…!私のことが見えてるなんて思ってなかったし…」

当時のことを思い出してくすくす笑いながら話すと名前は頬を赤く染め、恥ずかしそうに顔を俯かせた。

「それから、毎日遊んだよね。飽きることなく、毎日、毎日…」

懐かしさに顔を綻ばせ、僕が話せば彼女も頬を緩ませた。
ああ、名前も覚えてくれているんだ…そう思ったら嬉しくて仕方がなかった。

「だけど、ある日を境にそれは途絶えた…」

あの日は名前と一緒に街に出掛けることになったんだ。まだ右も左も分からない小さな子供が家の外に出るのはどんなに危険なことかなんて考えもせず…。

「横断歩道を渡っている僕らに信号無視をした一台のトラックが突っ込んできた…」

「っ…」

「命を落としてもおかしくはないその事故で僕は奇跡的に助かった…名前、君が治してくれたのだろう?」

車に轢かれ、血を流す僕を名前は泣きながらきらきらと光る不思議な力を使って治してくれた。何度も、何度も僕の名前を呼びながら…。

「それ以来君の記憶は僕の中に封じ込められ、僕の元に君が訪れることはなかった」

じゃりっと音を立て、彼女に一歩ずつ近付いていくと名前はビクリと肩を跳ねさせ、俯かせていた顔を上げる。彼女の頬は涙で濡れていた。

「名前、」

すっと名前に手を伸ばし、肩を震わす彼女の身体を包み込んだ。途端彼女の甘い香りが、温かなぬくもりが伝わり、僕を酷く安心させた。

「名前…また、君に会えて良かった…ずっと、会いたかったよ」

「っ…ぅ、…庄…!」

ぼろぼろと涙を零し、縋り付くように僕の胸元をきつく握る名前を強く抱きしめた。


重なる影


あの時と何も変わらない君に
酷く嬉しさが込み上げる─


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君が何であろうと関係ないよ
僕は他でもない君が、好きなんだ─

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