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 変わる日々


授業が終わると同時に学校から飛び出す。向かう先は、いつも君の隣。

「名前さん!」

「庄!ふふ、そんなに慌てなくてもいいのに…」

「いえ、お待たせするのは悪いので…」

柔らかく微笑み、額を流れる汗を彼女がハンカチで拭う。それにお礼を言って木に背を預ける彼女の隣に腰掛けた。

彼女と言葉を交わした日から僕らは毎日この小高い丘で時間が許す限り二人の時間を楽しんでいた。
毎回走って彼女の元に向かう僕に名前さんは「ゆっくりでいいのに…」と呟くが僕は頭を振る。そうしなければ自分の気が収まらないのだ。いつか彼女が消えてしまうような気がして…。
毎回彼女の姿を見付けては心底安心する自分がいる。気付かない間に自分の中で彼女の存在が日に日に大きくなっていた。



「(雨…?)」

昼食を食べ終え、午後の授業が開始された頃から徐々に雲行きが怪しくなる。ついに曇天からはポツポツと雨が降り出し、地面が徐々に色を変え始めた。

「(予報では夜からだったのに…)」

念のため傘を用意しておいて良かった…と心の中で呟いているとハッとある心配事が頭を過る。

「(今日は名前さんに会えないのかな…)」

授業の内容など一切頭に入って来ず、そのことばかりが気になっていた。



「名前さん!」

「庄…!どうしたの?そんな怖い顔して…」

授業が終わり、ザァァッと音を立てる雨の中、彼女の姿を探していつもの小高い丘に足を向けるとそこにはずぶ濡れになった名前さんがその場に座っていた。

「どうしたの?じゃないですよ!傘も差さずに…!」

上着を脱いで彼女の肩に掛け、名前さんの手を引いて立たせる。手を握ったまま歩き出せば彼女は焦った声色で僕の名を呼んだ。

「どこに行くの…?」

「僕の家です。そのままでは風邪ひきますから」

驚きに目を見開いて固まる彼女を傘の中に入れ、僕は有無を言わさず再び彼女の腕を引いて歩き出した。

「しょ、庄!やっぱり悪いよ…」

自宅に着き、玄関のドアを開けて中に入る僕を名前さんは焦った声色で呼び止め、僕の服を引っ張った。家の中に入ることを躊躇う彼女を安心させるように微笑み、名前さんの細い腰に腕を回して引き寄せた。

「大丈夫ですよ、そんなに心配しなくても…」

「で、でも!ご両親にも悪いわ」

パタンとドアが閉まるのを確認してから彼女が逃げないように後ろ手で鍵を掛ける。ガチャリという音に僕の腕の中にいる名前さんはビクリと肩を揺らす。ガチガチに固まっている名前さんの緊張を解くように彼女の腰に回していた腕を上にずらし、ゆっくりと背を撫でた。

「はは、大丈夫ですよ。うちの両親は共働きで夜遅くならないと帰らないし。弟も遊びに行ってて今いな…あっ!」

そこまで言って漸く名前さんと二人っきりだという状況に気が付き、カァァっと顔が熱くなり始める。
これじゃあ厭らしいことしようとしてるみたいじゃないか!

「庄…?」

「い、いや!何でもない!とりあえず上がってシャワーでも浴びて来て!その間に服乾かしちゃうから」

首を傾げて僕を見つめる名前さんに慌てて邪な考えを追い出し、早口でそう伝えて彼女を風呂場まで案内した。



「庄、シャワーありがとう。服まで借りちゃって…」

「いや、いいよ」

名前さんを風呂場に押し込んでから数分後。僕の服を身に纏った名前さんがリビングへと姿を現した。小柄な彼女に僕の服はぶかぶかなようで、気を抜くと肩が出てしまいそうな程だった。そんな彼女から慌てて視線を外し、名前さんをソファーに座るように促した。

「どうぞ」

「わぁ、ありがとう!」

ソファーの前のテーブルにホットミルクが入ったコップを置き、彼女の隣に腰掛ける。「美味しい!」っと嬉しそうに顔を綻ばせ、コップに口を付ける名前さんにふっと笑みを零して彼女の髪にすっと手を伸ばした。

「髪、まだ濡れてるよ」

「大丈夫よ、すぐ乾くわ」

髪を梳くように撫でてから彼女の首に掛かっていたタオルを抜き取って優しく水気を拭ってやる。すると彼女は気持ち良さそうに目を細め、コップを机に置いて甘えるように僕の肩にもたれ掛かってきた。

「ふふ、庄はあったかいね」

「名前さんも温かいよ」

トクン、トクンと自分の鼓動が鳴り響く。思えばこんなに彼女に接近したのは初めてかもしれない。彼女から伝わってくる体温が心地良くて、いつまでもそうしていたくなるような感覚に陥る。

「名前さん…」

「うん?」

「僕、」

ゆっくりと僕の肩から頭を上げてこちらを真っ直ぐ見つめる彼女に言い掛けた時、乾燥機の終了を伝える機会音が部屋中にピーッピーッと鳴り響いた。
今いいところだったのに…!

「今日は帰るね」

「え、でも、」

「雨も上がったようだし」

その場に立ち上がり窓の外に視線を向ける名前さんに倣ってそちらを見ると彼女の言う通り雨はもう止んでいた。

「送って行きますよ」

「ううん、大丈夫よ。ありがとう、庄」

別室で自分の服に着替えた名前さんに送ると申し出るが彼女は頭を振り、やんわりと断る。

「庄、」

「はい、何です…っ!?」

もう行ってしまうのかと寂しさに心を沈ませていると名前さんに名前を呼ばれる。いつの間にか俯いていた顔を慌てて上げると目の前には優しく微笑む名前さんの顔があって、僕の頬に彼女の柔らかな唇が押し当てられた。

「名前さ…!」

「ありがとう。またね?」

頬に感じた熱に顔を真っ赤にして固まっている僕に彼女は一度ふわりと微笑むとそのままドアに手を掛け、家を出て行った。


少しずつ、少しずつ、
縮まる距離


「そんなことされたら、何も言えなくなるじゃないか…」

ぐしゃりと自分の髪を掴み、顔を赤くした僕だけがその場に取り残された。


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時間など気にせず、
もっと君と長く一緒にいられたら…
そう願ってしまう僕はきっと、
君のことが…─

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