短いの | ナノ
テマリ成り代わりがシカマルに追い詰められる2



 先日私は年下ロールキャベツに壁ドンされた挙句にキスされた。

 大人しくされるがままになってしまったことが大変腹立たしい。私としたことが・・・!と一人になってから歯ぎしりした。
 だがそこは大して問題ではない。あれもまあ、問題なのだが、あのあとからシカマルが妙に私に強気に出てくることのほうが問題である。
 人がいるときには今までどおりであるのが救いだが、二人きりになった途端ボディタッチやらなんやらが多くなるのはいただけない。しかも立場上シカマルと二人になる機会が多く、大変由々しき問題だと認識している。ということを友人にも相談したのだが、彼女たちは「いいじゃん、良家の跡取りだし」「出世株だし」「知性派だし」「「「このままゴールインしちゃえよ!」」」とまあ薄情なやつばかりであった。

 「俺といるときに、また考え事ですか?」
 「別にいいだろ」
 「あんたが良くても俺が良くねえ」
 向かい側に座っているシカマルが手を私の手に重ねた。やつのごつごつとした手に私の手はすっぽりと覆われてしまい、男女の差をまたもや見せつけられて舌打ちをしたくなる。
 やつの皮の厚い手のひらから私の手の甲へと熱が伝わってくるし、まっすぐに私を見つめるシカマルの目は相変わらずギラギラと光っている。いつもはやる気のない目をしているくせに。
 私は、べっ、とシカマルの手を振り払った。
 「嫌でした?」
 「当然だろ、仕事仲間の距離じゃない」
 「・・・あんたに恋愛感情持ってる男とキスして、ただの仕事仲間に戻れると思ってるんですか」
 「あれは私の意思じゃないだろ。勝手にやらかしておいて何を言っているんだ」
 「ならなんで今みたいに拒絶しなかったんだよ」
 「・・・お前がそういうことをするとは思ってなかったから、びっくりしたんだよ」
 「嘘だ。そんなやわな女じゃないだろ、あんた」
 「うるさいな、そういう時もあるんだ」
 「なあ、ファーストキスだった?」
 「は?」
 「俺は、初めてだった。あんたもそうなら嬉しい」
 「馬鹿か。んなわけないだろ」
 と言ったものの、ファーストキスの相手はまさかの私の友人代表・アキコである。失恋直後の精神状態が不安定なアキコを慰めていたら「あんたが男だったら良かったのに!好き!」とかまされたのである。恩を仇で返すとはこのことだ。何故私の唇は私の意思と関係なく奪われるという失態を繰り返すのか。
 「・・・初めてじゃねえの?」
 「残念なことにな」
 本当に残念である。ファーストが女友達でセカンドがワンコのように思っていた年下のロールキャベツ。私の唇になんの恨みがあるのか。このままではサードにも期待はできなさそうである。
 などと考えていたら、いつの間にかシカマルの表情が変わっていた事に気づく。これはあれだ、怒ってる。もしくは苛立っている顔だ。どちらにせよ、シカマルの機嫌が急降下していることに変わりはない。前回のように頭の中で警鐘が鳴り響いた。今度は何を間違えた。あ、初めてじゃないって言ったからか。そうか。警鐘が鳴るのが遅い。選択肢を選ぶ段階で鳴って欲しいものである。だって、多分、またもや手遅れの予感がする。
 「誰?」
 「・・・誰だっていいだろ」
 「よくねえ」
 「昔の話だ」
 「いつだよ」
 「1年前かな」
 「全然昔じゃねえだろ」
 「私は今の今まで忘れていた」
 「じゃあ、俺としたこともすぐ忘れんの?」
 忘れてやりたい、と言いそうになったのをあわてて飲み込む。よし、私は学習した。これ以上事態を悪化させてなるものか。
 「・・・・・さあな」
 「・・・んだよ、それ」
 シカマルが下唇を噛んだ。こいつのしては珍しい仕草である。警鐘が鳴り止まない。もしかして、私はまた選択肢を間違えたのか。くそ、正解の選択肢がわからない。
 「・・・・・・」
 「絶対、忘れさせねえから」
 今私の背後に壁はない。よって前回と同じ轍は踏まないはずだ。場所は資料室。テーブルを挟んで向かい側。テーブルの上には資料がところ狭しと広がっているし、流石にテーブルを乗り越えては来ないだろう。
 とすれば私が負ける要素は少ない。なにより、そもそも私がこいつの顔色を伺うような真似をすることが腹立たしい。ならば、と無駄に余裕のできた私は腕を組んで強気に出る。
 「私が忘れなかったらお前は満足するのか」
 「・・・満足は、しねえな」
 「じゃあ忘れることにする。そのほうが楽だしな」
 「楽?」
 「だって、私たちはただの仕事仲間だろ」
 言った瞬間、シカマルの瞳が揺らいだ。なんだ、その顔は。まるで迷子の子供みたいな、置いていかれて呆然としているみたいな、悲そうな顔は。途端にさっきまでの余裕が空気の抜けた風船のように萎み、ぎゅう、と私の胸が締め付けられる。やめろやめろ、騙されるな。つい先日化けの皮の下を見たばかりだろうが。同じ手に引っかかろうとするんじゃない。
 「・・・俺は、そう在りたくないんだよ」
 呻くような声。足元を何かが這う感触がして下を見ると、シカマルから伸びた影が私の足を這っていた。テーブルの下に隠れて印を組んでいたらしい。ここまでするか!?印を結んだままシカマルが椅子から立ち上がり、ゆっくりとこちらに歩を進めた。これは不味いと逃亡を図るが、足首を影にがっちり掴まれて逃げるに逃げられない。私は椅子に腰掛けたまま半ば叫ぶようにシカマルに非難の声を浴びせた。
 「いくらなんでも反則だろこれは!」
 「恋の駆け引きに反則も何もねえよ」
 「駆け引きってお前引いたことあったか!?」
 「引いたら逃げちまうだろ、あんた」
 「当然だ!」
 シカマルが私の前に立って私を見下ろす。シカマルの脚が私の膝小僧に当たった。実に近い距離である。だが印を結んだままでシカマルの手も塞がっている。いくら近くまで迫ろうが、これ以上はどうせ何もできまい、と高をくくっていたらシカマルが印を結んだまま私の首の後ろに上から手を持ってきて、輪のようになった腕の中に私の頭を閉じ込めた。くそ!そんなやり方もあったのか!
 精一杯手でシカマルの肩を押し返しつつ上体をひねらせて抵抗する私に、シカマルがいつもより低い声音で囁く。
 「今度は絶対に忘れられないようなやつ、くれてやるよ」
 それはあれか、いやらしいやつか!?鳴らしすぎてブッ壊れた警鐘が脳内に横たわっている。役立たず!
影が徐々に足首から太股へ、太股から腰へと伸びていく。
何がどうしてこうなったのか。それなりに可愛がっていた年下ワンコに告白され、返答を迫られ何故か口吸いまでされたのが少し前。そして今私の唇は再び奪われようとしている。これいかに。
私の首に回された腕の筋肉に僅かに力が加えられた。ど、ど、と私の心臓が力強く脈打った。
 ああ、くそ!やってられるか!!
 完全にキャパオーバーした私は、頭が真っ白になる中、本能で、ピンチの時には欠かせない私の武器、鉄扇に手を伸ばす。椅子の背もたれに立て掛けてあったそれを後ろ手で掴み、思いっきり降り下ろした。
 「・・・この、エロガキが・・・っ!!!」
 「・・・っ!!?」
 その衝撃で私の体を這っていた影はするりともとに戻っていく。それを良いことに、エロガキこと奈良シカマルにクリーンヒットした我が優秀なる武器を片手に、私は逃亡したのであった。




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