短いの | ナノ
本能で動く影山くんと幼馴染




 「ただいま」
 ガラガラ、と音を立てて扉を開ける。あ、あいつまた玄関に鍵かけてなかったな。田舎だからって、今のご時世、危ないだろ。
 おかえり、と奥から高めの声が聞こえた。靴を乱雑に脱いで、木目の廊下を歩く。時々、ぎし、と音が鳴った。
 ここは俺の家ではない。俺の家の隣りの、幼馴染の家だ。今日みたいに親がいない日は、この幼馴染の家に泊まるのが幼い頃からの習慣だった。そういえば、それを前に田中さんに言ったら頭を叩かれたが、あれはなんでだったんだろう。「羨ましすぎる!」とか言っていた気がするが。
 「あれ、ばあちゃんは?」
 「今日は婦人会の温泉旅行」
 「ふうん」
 幼馴染・・・ハナコは祖母との二人暮らしだ。というのも、彼女の父親は1年前から東京に転勤で、それに母親も着いていったのだとか。
 どさ、と荷物をリビングに置く。ハナコは、キッチンに立っていて、背中しか見えない。ハナコが動くたびにエプロンのリボンが揺れる。なんか、いいな。誰かが家庭的な女性がいい、と言っていたのを思い出す。誰だったかな。あ、それも田中さんか。エプロンつけて自分のために料理を作ってくれるその背中がいい、と。経験ないくせに、妄想だろ、とスガさんにつっこまれていたが、なるほど、わかるかもしれない。
 いつもはおろしっぱなしの髪がくくられて、うなじが見える。ぎゅう、と胸が苦しくなった。美味しそうな香りが鼻腔をくすぐる。
 今度は腹がぎゅう、と鳴った。だけどそれ以上に、胸が、ぎゅうぎゅうする。腹が減るのに似ている。じゃあこれは、胸が減った、とでも言うのだろうか。
 腹が減ったら飯を食う。飯を食ったら腹は満足する。
 じゃあ、胸が減ったら何を食えばいいのだろうか。ハナコの背中が動いた。
 「あれ?まだシャワー浴びてなかったの?」
 早くしないとご飯できちゃう、とハナコは今度は俺をちゃんと見て言った。少しだけ胸の苦しさが和らいだ。なるほど、これか。これを食えばいいのか。
 のそのそと彼女に近づく。背後から、ゆっくりと。狼とかライオンが獲物を狙うみたいに。
 「!え、なに?」
 「・・・・・・」
 肩に顎を乗っけた。びくりと細い肩が揺れた。美味しそう。食欲が湧いた。これは腹と胸、どっちが空腹を訴えているのだろうか。もうどっちがどっちだかわからないくらい、ぐちゃぐちゃだ。
 「飛雄くん・・・?どうしたの?」
 ハナコが体をよじる。食べ物のものとは違う、甘い匂いがした。白い肌が目にこびり付く。口を開ける。捕食、の文字が頭に浮かんだ。
 「胸が、減った」




 がぶり。







prev next


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -